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“クラブを超えた存在”にあらず!!
胸スポンサーを巡るバルサの騒動。
text by
中嶋亨Toru Nakajima
photograph byDaisuke Nakashima
posted2011/01/02 08:00
全世界14万人の“ソシオ”と呼ばれる会員の会費で運営されていたバルセロナ。ユニフォームの後ろ襟にある「MES QUE UN CLUB(クラブを超えた存在)」という言葉も消えるのか?
「MES QUE UN CLUB(クラブを超えた存在)」
バルセロナが掲げるクラブのポリシーである。カタルーニャのシンボルとして他のクラブとは一線を画すことを示すこの言葉に対し、「もはやバルサは、他のクラブの中の一つに過ぎない」と発言した人がいる。
バルセロナの英雄、ヨハン・クライフである。
クライフがこのように発言したのは、バルセロナがユニフォームにクラブ史上初めてスポンサー名を付けるようになったからだ。バルセロナはそれこそ「クラブを超えた存在」であることを誇示するようにユニフォームの胸スポンサーを拒否してきた。
現在ユニフォームの胸元にはユニセフのロゴがあるが、これはバルセロナがエイズ諸問題の解決のために役立てて欲しいと、年間150万ユーロ(約1億6000万円)をユニセフに支払って付けたものだ。それはスポンサー宣伝のためではなく、クラブを超えた存在として社会貢献活動に従事していることをアピールするためだった。
だからこそ、バルセロナがこれまで100年以上も守り続けてきた「ユニフォームにスポンサー企業名を付けない」という伝統は保たれていると理解されてきた。
5年間約180億で“ユニフォームを売る”決定に「NO QATAR」。
しかし、バルセロナはその伝統に終止符を打ち、“ユニフォームを売る”ことを選択した。
QATAR FOUNDATION(カタール財団)とパートナーシップを結び、5年間で1億6500万ユーロ(約180億円)の支援を受けることとなった。また、バルセロナに出資するのはNGOであるカタール財団ではなく、QATAR SPORTS INVESTMENTSという企業であることも明かされた。
事実上、企業にユニフォームと伝統を売ったことが、クライフの発言を生んだ。このニュースが発表されてからのカンプ・ノウでは、「NO QATAR」という横断幕を掲げるファンも少なからずいる。バルセロナに関わる人の多くは心情的に言うとこの契約に反対している。
“バルサのレジェンド”からの非難にもロセイ会長は馬耳東風。
だが、バルセロナ会長サンドロ・ロセイはこう言う。
「すべてのクラブが羨ましがる契約を結ぶことができた。現実的にバルサの財政は破綻寸前だった。借金の返済をできることがうれしい」
彼の言葉通り、ロセイが会長に就任した7月の時点で、バルセロナは4億4200万ユーロ(約481億円)もの負債を抱えていた。その莫大な額ゆえに、ロセイは前会長ラポルタの杜撰な経営を公然と批判した。
ロセイにとって“ユニフォームを売る”ことは、どれだけ反対されようと、「前任者の尻拭いをしてやっている」という大義名分がある。
だから、クライフに対して一歩も引くことはない。ロセイはこう反論する。
「彼はバルサのレジェンド。そんな人が言うからには一理あるはずだ。しかし、5年前には彼自身が『胸スポンサーをつけて財政を潤わせるべきだ』と語っていたんだがね」