オリンピックへの道BACK NUMBER
「シライ」「カトウ」の新技誕生。
打倒内村へ狼煙を上げた2人の若者。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byEnrico Calderoni/AFLO
posted2013/10/05 08:02
個人総合で銀メダルを獲得し、内村を追う一番手を国内外にアピールした加藤凌平。現在20歳、伸び代はまだ十分に残されている。
ベルギー・アントワープで9月30日に開幕した体操の世界選手権は、10月3日、男子個人総合決勝まで終了した。
大会はまだ終わってはいないが、日本男子はあらためてポテンシャルを示した。
特に鮮烈な世界大会デビューとなったのが白井健三である。
日本男子史上最年少での日本代表入りを果たした17歳、高校2年生の白井は、跳馬の1回目に「伸身ユルチェンコ3回ひねり」を、ゆかで「後方伸身宙返り4回ひねり」を決めた。そしてこれらの名前には、「シライ」とつけられることが決まった。
体操の技の名前は、演技内容を表したものと、選手名がつけられたものがある。国際体操連盟の定める国際大会で、これまで実施されたことのない新技を事前に申請した上で成功させると、技の通称として実施者の姓が技名として認定される仕組みがある。
白井はこれまで世界の主要大会で誰も成功させていないこれら2つの技を申請し、成功させたことで、自身の名を冠せられることになったのである(跳馬は韓国の選手も成功したため、両者の名前が併記される)。過去、技に名前のついた日本男子の選手は13名いるが、オリンピック金メダリストである遠藤幸雄、加藤沢男らそうそうたる顔ぶれが並ぶ。そこに連なることになったのだ。
しかも、ゆかの得点は16.233。これはロンドン五輪の同種目金メダリストの15.933を上回るものである。むろん、1位で種目別決勝進出を決めた。跳馬でも2回目こそ失敗したものの、新技を成功させた1回目の貯金が生きて6位で決勝へ進んだ。
物怖じしないメンタルで、あっさり新技を成功。
今夏、内村航平が「ひねりすぎて気持ちが悪いです(笑)」と独特の表現でその能力を評価した白井は、両親、兄2人も体操選手と、まさに体操一家で生まれ育った。3歳から競技に取り組み、中学生時代では全国大会で活躍を見せ、将来を嘱望されるようになっていた。
身体能力の高さとともに、白井の長所は、物怖じしないところにある。先輩の選手にも「勝てると思います」と口にする。世界選手権の予選であっさり新技を成功させたのもそうした性格だからだろう。
しかしもちろん、今大会で目立ったのは白井ばかりではない。個人総合決勝では、内村が史上初の4連覇を達成し、世界選手権初出場の加藤凌平が銀メダルを獲得した。内村はあらためて抜きん出た強さを見せつけたが、ここでは、加藤の銀メダルに着目したい。