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「体操はやはり美しくないといけない」
4連覇の内村航平を突き動かすもの。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byEnrico Calderoni/AFLO
posted2013/10/04 12:10
期待通り世界王者の戦いを見せ、期待通り金メダルを手にした内村航平。絶対王者の覇権は、しばらく揺るぎそうにない。
それまで賑やかだった会場が、一瞬にして静まりかえった。内村航平(コナミ)が最終種目の鉄棒の演技を始めようという時だった。
ベルギー・アントワープで行われている体操世界選手権の男子個人総合。決勝に出た24人のうち23人はすでに演技を終えており、残るのは5種目を終えた時点でダントツで首位に立っている内村ただ一人だった。
観衆は、史上最高のオールラウンダーと呼ばれる王者が、前人未踏の4連覇を成し遂げる瞬間を目に焼き付けようと、息を潜めながら視線を集中させた。
G難度カッシーナ、成功。F難度コールマンも完璧。最後の着地こそやや動いたが、ほぼノーミスと言って良い演技を披露すると、得点が出る前に喝采が降り注いだ。
鉄棒は15.533で、6種目のトータルは91.990。非の打ち所のない高得点に、王者は両手でガッツポーズをしながら、さらに観衆に拍手をうながすような仕草も見せて、自らを祝福した。4連覇は男女を通じても史上初という快挙だった。
表彰式では2位の加藤凌平(順大)と並び、久々の“ドヤ顔”を見せた。ミスの連発に苦しみながら金メダルをつかんだロンドン五輪では見せずに終わった表情だ。
「隣に凌平がいたからそういう顔になったのかも」
そう言って笑いながら、首に提げている金メダルに触れ、「(ロンドン五輪のメダルと比べて)ちょっと小さくて薄いですけど」と、今度は報道陣を笑わせる。
そして、胸を張り、こう言った。
「うれしい。“これが体操だ”と示せた大会だったと思う」
美しさの評価で高得点連発。完璧な出来栄えだった。
高難度の技を多く盛り込む“攻め中心”の戦いから、演技構成の難度をある程度抑えめに設定し、できばえで勝負する作戦に切り替えて、今大会に臨んだ。
その選択が間違っていなかったという手応えをつかんだのは予選のとき。
演技の美しさを評価するEスコアで高得点を連発し、6種目すべてで15点以上をマークして合計91.924。得点も内容も、「決勝じゃなくて残念」と言うほどだった。
決勝ではさらにその上をいく91.990をマークした。