オリンピックへの道BACK NUMBER
「シライ」「カトウ」の新技誕生。
打倒内村へ狼煙を上げた2人の若者。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byEnrico Calderoni/AFLO
posted2013/10/05 08:02
個人総合で銀メダルを獲得し、内村を追う一番手を国内外にアピールした加藤凌平。現在20歳、伸び代はまだ十分に残されている。
内村に勝ちたい、真剣にそう思うようになった。
加藤は、昨年のロンドン五輪に「ゆかのスペシャリスト」として出場した。
当時18歳の加藤は、代表に選ばれ、こう語った。
「実感がなくて、夢のようです」
野心なく、ただ夢中で選考会に臨み、つかんだ代表だった。
しかし、今年になって姿勢は一変した。その象徴が6月のNHK杯。5月の大会演技中、つり輪が切れるアクシデントで肩を痛めた影響も残る中、疲労の色を露わにしながら驚くべき粘り強さを見せ、すでに代表に内定していた内村に次ぐ2位となり代表入りしたのである。
その変化は、まさにロンドン五輪にあった。
自身が出場しない日、大会を観ていた加藤はこう思ったという。
「もう少し頑張れば世界で通用する」
届かない距離ではないことを実感し、さらにこうも考えた。
「個人総合で戦える選手になりたい」
世界選手権出発を前に、加藤は言った。
「(内村航平と)2、3年後には互角に戦えるレベルになりたいです」
そして
「(リオでは)団体で金メダルを。個人総合でも、金メダルを獲りたいと思っています」
と口にした。内村に勝ちたいという表明でもある。
その意欲が今大会の個人総合予選から表れていた。つり輪で見せた、足を上向きに静止させ、十字懸垂する新技にも、加藤の名前がつくことになった。
世界チャンピオンの存在が周囲にも好影響を与える。
世界最高のオールラウンダーであるエースの内村がいて、その内村を「本気」になった加藤が追う。さらに若い世代も台頭する。厚みが生まれるのはやはり、内村という世界チャンピオンが間近にいるからこその刺激もあるだろう。全種目15点台で圧勝しながら、「反省点はあげればきりがないです」と、勝ってなお向上心を見せる内村の姿は、追うべき目標であり、格好のお手本でもある。
また日本男子は、オリンピックでの団体金メダルを目標に掲げながら、北京とロンドン両五輪で銀メダルに終わった。ゆかと鉄棒で王者の中国との差があると考えてきたが、そうした意味でも、白井の台頭は大きい。
現在の日本男子の力量を示し、リオデジャネイロ五輪へ向けて好スタートを切った。
個人総合決勝までを終えた今大会の日本男子は、そう思わせるほどに可能性に満ちていた。