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前橋育英と延岡学園の美しき決勝。
両校が見せたクリーンファイトの爽快。 

text by

氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byHideki Sugiyama

posted2013/08/23 12:15

前橋育英と延岡学園の美しき決勝。両校が見せたクリーンファイトの爽快。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

延岡学園のエース横瀬貴広は「思い切り楽しめた。悔いはない」とコメント。連投で優勝に貢献した前橋育英の高橋光成は「最後の1球は先輩たち全員の思いを込めて投げた」と語った。

勝つことよりも、人間性を誉められる方が嬉しい。

 前橋育英は「凡事徹底」という言葉を掲げ、小さなことを積み重ねて強くなってきたチームだった。全力疾走やカバーリング。日常生活においては、挨拶や時間厳守、掃除を重んじ、人間性を高めてきた。荒井直樹監督は言う。

「野球以外の面で重視しているのは、服装と時間、清掃などです。服装が乱れたら、社会では生きていけません。時間はただ、集合時間に間に合えばいいということではなく、提出物をきっちり守るとか、『間に合う』ということが大切。掃除については、片づける人間か片づけられない人間なのかどうか。野球の試合の中には、『試合を片づける』という部分がありますし、そこにつなげて話をします」

 一方の延岡学園も、日々の積み重ねを重視するチームだった。

 野球の練習だけではなく、日常生活・学校生活で自身を律する。挨拶やゴミ拾いなどの当たり前のことを当たり前に繰り返してきた。重本浩司監督は言う。

「うちの学校は大峡町というところにあるのですが、甲子園の出場が決まった時に、町の方から今年は甲子園に行くんじゃないかと思った、と言われました。挨拶や普段の行動を見て、今年は違うと思ってくれたそうです。僕は、勝ったことよりも、そう言ってもらえたことが嬉しかった。今年の3年生は普段の生活にしても、寮生活にしても、コツコツと積み重ねてきた。人の良さ、人間性はあると思います」

キャッチャーマスクを打者がわざわざ拾う行為も「普通のこと」。

 両者は似通っていた。

「僕らは凡事徹底というテーマを掲げていたんですけど、試合後に聞いたら、延岡学園もそうだったらしいです。お互い、同じ目標を掲げていたので、感じるものがありました。延岡学園はいいチームだった」と前橋育英の遊撃手・土谷恵介が言えば、右太もも肉離れで1回にベンチに退いた延岡学園の二塁手・梶原翔斗もこう語った。

「ベンチで試合を見ていて思ったのは、お互いが正々堂々と試合をしているということでした。『凡事徹底』というのがプレーにも出ていたし、普段の生活の積み重ねを大事にしているチーム同士が今年の決勝の舞台に揃ったんだなと思いました」

 念のため、ファールボールを追う際に放ったキャッチャーマスクを相手チームの打者が拾う行為について選手に聞いて回ってみたのだが、どちらのチームの選手も「当たり前のこと」と特別なこととは受け止めていなかった。前橋育英のエース・高橋光成は2連投で明らかに疲れている中での出場だったはずなのだが、それでも打席に入った時にはキャッチャーマスクを拾うことを忘れなかった。そのことを質問すると、「普通のことなんで」とサラリとコメントした。荒井監督は言う。

「疲れていることと、気付くことは切り離して考えています。楠(裕貴)が今大会の試合で、チャンスにキャッチャーフライを打ったんですけど、その時にマスクを拾ってキャッチャーに渡してからベンチに帰って来たことがありました。楠は今大会打てなくて迷惑を掛けたって言っていたんですけど、僕は楠のその行為がすごく大事なことだよって話しました。凡打して悔しいと思うけど、その瞬間に次の事が始まっているわけですから、次に切り替えられるんです」

【次ページ】 勝利に固執し過ぎ、様々な問題が出てきた高校球界。

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