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優勝を呼んだ前橋育英の「凡事徹底」。
誰でもできること、誰よりも続けること。  

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中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byHideki Sugiyama

posted2013/08/22 19:20

優勝を呼んだ前橋育英の「凡事徹底」。誰でもできること、誰よりも続けること。 <Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

「本当にこの子たちが日本一になったのかと、信じられない。日頃の積み重ねが優勝という結果になって……」と試合後にコメントした荒井直樹監督。

 前橋育英(群馬)の監督、荒井直樹は常に「平熱」の人だ。

「監督のすごいと思うところは?」という質問に対し、一塁手の楠裕貴は、真っ先に「怒らないところ」と答えた。

「野球以外のことでは厳しく注意されることはありますけど、声を荒げたりすることもない。1カ月間、ほとんど誰も注意を受けないこともある」

 延岡学園(宮崎)との決勝戦で、4回裏に3点先制されたときも、5回表にすかさず同点に追いついたときも、ベンチ前に立つ荒井が喜怒哀楽を表現することはほとんどなかった。

「ここまできてドタバタしてもしょうがないので。ガツガツやってもいいことないじゃないですか」

 指揮官も、選手も、強さの理由を尋ねても「特別なことは何もしていない」と繰り返した。逆説的だが、強いて言えば、それが「特別」だった。

 荒井の座右の銘は「凡事徹底」。今年のチームとこれまでのチームはどこが違うかと問うと、こう答えた。

「毎朝、散歩しながら15分間ゴミ拾いをしているんですけど、今年はそういうこともきちんとできるチーム。本物というのは、そういう平凡なことも、きちんと積み重ねることができるチームのことだと思うんです」

「インコースの打ち方を覚えるよりも、まずはトイレをきれいにしろ」

 指導の礎としたのは、日大藤沢(神奈川)を卒業し、1983年に就職したいすゞ自動車での経験だ。

「インコースの打ち方を覚えるよりも、まずはトイレをきれいにしろ、靴をきれいにそろえろ、というチームだった」

 入社当時、チームは低迷期で大学生相手にも負けてしまうほどだった。入社7年目に都市対抗の本戦に出場したときは、実に18年振りだった。

 ただ、そんな気風が荒井の性に合ってもいた。

「社会人で13年間やらせてもらったけど、常に『クビ候補』の選手だった。ピッチャーを失格になり、外野手もダメで、内野手になって、ようやく少しずつ試合に出させてもらえるようになった。すぐにできるタイプじゃないんです。そういうセンスがないんだと思う。じっくり、じっくり、なら何とかなるんですけど」

 そして荒井の退社後、2002年にいすゞ自動車は全国制覇を成し遂げた。時間はかかるが「凡事徹底」はあらゆるところに生きることを確信した。

【次ページ】 強いと思ったことはない。でも、どこよりも我慢強い。

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