REVERSE ANGLEBACK NUMBER
大分トリニータが書いた完璧な設計図。
サッカーに「弱者の兵法」はあるのか。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byKYODO
posted2013/08/07 10:31
試合後、うなだれる大分トリニータのイレブン。19試合で19得点、36失点。現在5連敗中。昨季はJ2で59得点、40失点だったが、J1の壁は厚かったか。
指揮官の意図と選手の動きのズレが窮地に追い込む。
大分は3バックのシステムを取っている。J1では少数派だろうが、得点力が高くなく、守備重視で試合を組み立てなければならないという事情が大きいだろう。ただ、このシステムを使い、4バックの相手との対応する人数のズレをこの日はうまく攻撃につなげていた。意図的にミスマッチを作り、1対1の個人の力勝負を避けて、人数のほころびをついて攻める。そんな作戦がうまく行った。ある程度は。
惜しかったのはそうやって数的な優位を作り、抜け出したり、シュートに持ち込んだりしながら決めきれなかったことだ。前半15分までに1点を取っていれば、試合の展開はずいぶん変わっていただろう。
8月の夜の試合。気温は手許で計ると27度ぐらいでさほど高いとはいえなかったが湿気が多かった。開始の時点で72%ぐらいだった湿度はどんどん上がり、前半の終わりごろには78%ぐらいまでになった。点が取れずに消耗し、気象条件も厳しくなる。徐々に歯車が逆回転しはじめた。
20分をすぎたあたりから守勢だった東京がシステムを変えた。サイドバックの太田宏介のポジションを上げて3バックにしたのだ。太田がより攻撃的になった上に、大分がねらっていたミスマッチを解消したことで、東京の攻撃にスムーズさが生まれる。30分過ぎにはルーカスが惜しいシュートを2本放ち、ゴールも間近と思わせる。そして37分、ポジションを上げた太田が左サイドから絶好のクロスをあげ、渡邉が決めて先制した。
田坂監督の設計図は申し分ない。足りないのは……。
そのあとはほぼ一方的な試合になった。後半開始早々、一気に攻勢に出た東京はPKを得て渡邉が2点目を決めた。そのあともゴールこそならなかったが、大分にチャンスらしいチャンスは作らせなかった。
「弱者の戦略」は実らなかった。システム上のミスマッチを利用し、下位チームでアウェイだから序盤は守備的に来るだろうという相手の思い込みにもつけ込んでひと泡吹かせる作戦はうまく行かなかった。
「試合の入り方も悪くなかったし、ゴール前にも行けた。でも最後が決めきれない。なかなか勝ちきれない。九州から駆けつけて応援してくれるサポーターに申し訳ないのだが」
試合後に田坂監督は早口で振り返った。記者からの質問は出なかった。監督の意図ははっきり理解できたし、選手も忠実に実行しようとしてはいた。設計図は間違いない。なのに出来上がったものは魅力ある完成品にはならなかった。プランやアイデアの問題ではない。クラブの金庫の問題だということが誰の目にも明らかなので、「武士の情け」で記者も質問を封印したのだろう。