日本代表、2014年ブラジルへBACK NUMBER
収穫は新戦力の台頭だけじゃない。
東アジア杯で栗原勇蔵が得たもの。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2013/08/04 08:01
失点に絡んだら、点を取り返す。勝利を逃したら、次は絶対にやらせない。栗原の“巻き返し”は流れを変える力がある。
下げられたのではなく、勝利のために敢えて下がった。
練習では鈴木大輔や千葉和彦ともコンビを組み、身振り手振りでラインコントロールを確認していく。プレーの一つひとつに熱がこもった。若い選手たちのヤル気にも刺激を受けたのか、さらに目の色が変わったように感じた。
続くオーストラリア戦では終盤に疲労の色が濃くなった千葉に代わって途中出場し、最後の10分間をゼロで封じこめている。
そして最後の韓国戦の前には「とにかく勝ちたい」と話していた。いくら内容が良くとも、勝たなければ評価されないし、若い選手にも自信を植えつけられない。アウェーという難しさはあってもライバルの韓国にはどうしても勝たなければならなかった。
韓国戦の守備はザッケローニが理想とするものではなかったのかもしれない。
自在に動いてくるユン・イルロクを捕まえ切れず、また、前線でボールがなかなか収まらないこともあって、全体のラインは下がったままだった。しかし下げられたのではなく、勝利を追求するために敢えて下がった。裏のスペースを消し、相手が中に入ろうとすると味方が激しいファイトで外に追い出していく。栗原自身も放り込まれたボールを次々に頭ではじき返していき、イエローカードを受けるのも承知で相手を激しく突き飛ばすシーンもあった。
栗原が絡んだ中国戦の2失点は最初と最後の時間帯にゴールを奪われた。韓国戦の最初と最後、その時間帯の彼の集中力は凄まじいものがあった。
「柿谷はすごいなって、試合中に思ったよ」
彼は言った。「割り切った形だった」と。
コンセプトを大事にしながらも縛られすぎず、臨機応変にやる。決して褒められた内容ではなかったかもしれないが、その部分を韓国戦では見ることができた。チームとして共有することができた。
そして勝負に徹した割り切りが、ロングボールからの柿谷の先制ゴールを呼んでいる。柿谷のセンスには、栗原も思わずうなったほどだった。
「チャンス自体は少なかった。でも少ないチャンスを活かせるというか。柿谷はトップスピードに乗った形でもタッチが大きくならないし、いい場所にボールを置いている。凄いなって、試合中に思ったよ」
栗原自身、大会を通して自分の出来に満足はしていない。「韓国戦はシュートを多く打たれているし、ピンチを招いたのは事実。ピンチの数は減らしていかなきゃいけない」とも語っている。ただ、若い力に乗せられながら中国戦の借りを返し、そして目標だった優勝を勝ち取ることができたのもまた事実。切り替えて、巻き返せたことは彼にとって大きな意義があったのではあるまいか。
「(内容が)良くて2位、3位なのか、悪くても1位なのか。(それを考えると)やっぱ優勝のほうがアピールできると思うし、結果が一番だと俺は思う。最低限の結果なのかもしれないけど、ここで優勝の目標を達成できたのは良かったかなと思う」
新星たちとともに戦い、ともに勝ち取った優勝。それはザックジャパンのレギュラーを狙う栗原にとっても、「自信」という成果を得たことは言うまでもない。