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野球のセオリーを覆す、
“黒田流”MLB投球術。
~「クオリティピッチング」を読む~ 

text by

日比野恭三

日比野恭三Kyozo Hibino

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posted2013/07/24 06:00

野球のセオリーを覆す、“黒田流”MLB投球術。~「クオリティピッチング」を読む~<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

『クオリティピッチング 頭脳で「精密機械」はつくれる』 黒田博樹著 KKベストセラーズ 1500円+税

 野茂英雄に始まった日本人投手のメジャー挑戦は、常に「適応」が課題とされてきた。中4日のローテーション、長く過酷な移動、球数への考え方……日本とは異なる環境の中で、先発として長年にわたって安定した成績を残せた投手は、実はほとんどいない。

 その点、メジャー6年目を迎えた黒田博樹の活躍は特筆に値する。クオリティ・スタート(6回以上を投げて自責点3以内)率は3年連続で60%を超え、昨季の投球イニング数219回2/3はメジャー全体で6位に入る数字だった。今や、全米でも指折りの「ゲームをつくる」男なのである。

 自身2冊目となる著書『クオリティピッチング』で、黒田は渡米して間もない頃の心境をこう振り返っている。

「たとえ自分の中で大きなこだわりであったとしても、メジャーで勝つために捨てることが必要であると判断したら、それを捨て、メジャースタイルを受け入れるよう努めました」

完投へのこだわりを捨て、メジャーで求められる投球スタイルを。

 カープ時代の黒田は、「ミスター完投」の異名をとるエースだった。フォークを武器に三振を重ね、積み上げた白星は11年間で103勝。日本での実績は十分だった黒田でも、変わらずして今の地位を築き上げたわけではなかったのである。

「クオリティ・スタート」、「少ない球数」、そして「ローテーションを守り続けること」。これこそがメジャーで求められているものだと理解した時、黒田の「適応」に向けた作業は始まった。完投へのこだわりを捨て、三振狙いのフォークより凡打につながる球種の習得に努めた。マウンド上でのメンタル術、バッターのタイプ別攻略法、フォーム、さらにはプレートの踏み方まで、たゆまぬ研究と工夫の積み重ねがあったことは、本書を読み進めるごとに明らかになっていく。

 なかでも印象的だったのが、日本野球のセオリーに対する黒田の考え方だ。

 例えば、ストライクゾーンを9分割し「ボール1個分の出し入れ」を強調する風潮に対しては、「しっかり腕が振れないようでは実戦では使えない」「そもそも、アウトコース低めにボール1個分の出し入れできるコントロールを持っていれば、打たれることはない」ときっぱり断じている。黒田はむしろ「どうしたらコントロールを良く見せられるか」を模索する。常識に自分を当てはめるのではなく、己を知り、その中でいかに相手を抑えるか。不断の試行錯誤の重要性を黒田は繰り返し説いている。

【次ページ】 スマホでの動画閲覧システムは黒田の提案がきっかけ。

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