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野球のセオリーを覆す、
“黒田流”MLB投球術。
~「クオリティピッチング」を読む~
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph bySports Graphic Number
posted2013/07/24 06:00
『クオリティピッチング 頭脳で「精密機械」はつくれる』 黒田博樹著 KKベストセラーズ 1500円+税
スマホでの動画閲覧システムは黒田の提案がきっかけ。
先発投手としての職責に向き合う真摯な態度は、同書の本作りにも傾けられた。編集に携わった黒田俊氏が振り返る。
「校正作業はケータイのLINEを通じてやりとりしたんですが、黒田選手から次から次にメッセージが送られてきまして……。どこで返信したらいいのか分からないくらい(笑)。ちょっとしたニュアンスを修正したり、追加で情報を入れようという提案があったり。スマートフォンをかざすだけで動画が閲覧できるシステムを導入したのも、黒田選手から『やるからには何か新しいことを』という話があったところからスタートしました」
そうして誕生した本書には、「現役選手がよくぞここまで」と思わず感嘆させられる情報が詳細に綴られている。だが、それすらも黒田の“策略”なのだ。
「万が一、相手バッターがここに書いた僕の考えを知ったとしても、今度はそれを逆手に取ればいいだけのことです」
「おわりに」に書かれたこの言葉は、ピッチングに対する黒田の考え方をよく表している。
日本人としてメジャー64勝(7月3日現在)は、野茂に次ぐ歴代2位の数字だ。スタイルチェンジを断行して成功をつかんだという意味では、黒田もまた、パイオニアと呼ぶべき存在である。