スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
守護神・上原浩治誕生の裏にある、
レッドソックスのブルペン騒動。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAP/AFLO
posted2013/07/05 10:30
上原の代名詞となった勝利のハイタッチ。この光景が数多く見られれば、地区優勝も現実味を帯びてくる。
極めて打者有利の球場、フェンウェイ・パーク。
セーブ失敗の大きな要因として挙げられるのが、四球と本塁打だ。
四球は逆転の火種を作るだけでなく、流れ、そして球場のムードを変化させる。本拠地であれば不安が覆い、ファンはため息をつく。敵地では相手チームのファンを勢いづかせる。
本塁打は1点差の試合では文字通り命取りになりかねないが、もともとレッドソックスの場合、本拠地のフェンウェイ・パークが極めて打者有利の球場であるため、「被弾」の危険性が高いのだ。レフト側にそびえ立つグリーンモンスターは有名だが、ライトポールまでの距離が短く、投手にとっては気の抜けない状況が続く。
四球でランナーを溜めてしまい、一発を食らう――。これが最悪のシナリオなのだが、レッドソックス・ブルペンの問題は、まさに四球の多さだったのである。
上原はコントロールに定評があり、レンジャーズ時代の昨年、36イニングに登板して与えた四球はわずか3個に過ぎなかった。
今季は35イニングで7個。三振は51個を奪っており、アメリカで重視される三振と四球の比率の数字が良好。このあたりが評価され、上原はクローザーに指名されたと考えてよい。
ブルペンで交わされる“New Day, New Day”。
本人もクローザーになったからといって、気負ったところがない。
「8回に登板するセットアッパーであれば6回から身体を動かし、9回であれば7回から。1イニング後ろにずれるだけです」
ファレル監督も、
「アプローチが何も変わらないところがいい。ベテランの強みだろう」
と話していた。基本的に私は、クローザーとはベテランの仕事だと思っている。
しびれる場面での経験値、そして抑えても、打たれても翌日には淡々と仕事に向かう潔さ。
上原によれば、レッドソックス・ブルペンでは、常に、
“New Day, New Day.”
という言葉が交わされているという。
打たれたとしても、今日はまた新しい一日が始まっているのだと、仲間同士が確認するのだ。
現在は田澤、上原が踏ん張りを見せてはいるものの、ブルペンのコマ不足は否めない。おそらくトレード期限までに、経営陣はブルペンの強化に乗り出すだろう。
ただ、問題なのは昨季からポストシーズンに進出できるチームが5チームずつになったため、「諦めモード」になっている球団が少ないことだ。つまり、それだけトレード市場に出回る有力選手が少ないということだ。
果たしてレッドソックスは、ポストシーズン進出を狙って、どんな戦略を打ち出していくのか?
ここからは現場とフロントが一体となった「球団力」が試されるシーズンになる。