スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
守護神・上原浩治誕生の裏にある、
レッドソックスのブルペン騒動。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAP/AFLO
posted2013/07/05 10:30
上原の代名詞となった勝利のハイタッチ。この光景が数多く見られれば、地区優勝も現実味を帯びてくる。
梅雨の日本を脱出して、取材でボストン、オークランドと回ってきた。メジャーリーグは折り返し地点を過ぎ、オールスター、そして7月末のトレード期限まで話題に事欠かない季節だ。
今季、アメリカン・リーグ東地区で予想を裏切って首位を快走しているのがボストン・レッドソックスだ。85試合を消化した時点で、51勝34敗、2位のオリオールズに3.5ゲーム差をつけてトップ(以後、数字はすべて85試合消化時点のもの)。開幕前は、戦力的には地区最下位という評価も多かっただけに、前任のボビー・バレンタインからジョン・ファレルへの監督交代が効を奏した形となっている。
そして、レッドソックスの勝利に貢献しているのが、ブルペンのふたりの日本人投手、上原浩治と田澤純一である。
田澤はチームの中で最多登板を誇り、投手コーチから「タズ(田澤のニックネーム)は馬車馬だから」と言われるほど、頼りにされている。夏場以降、疲労が出ないか心配になるほどだ。
上原は6月下旬からクローザーに指名され、私が取材した26日のロッキーズ戦、27日のブルージェイズ戦ともに9回を3人ずつで打ち取り、安定したクローザーぶりを見せた。
勝利の形が作れなかったレッドソックス。
上原がクローザーを任されるまでに、レッドソックスのブルペンには紆余曲折があった。
当初、クローザーに予定されていたのはパイレーツからトレードで獲得したジョエル・ハンラハンだったが、肘のケガで手術を受け、今季は絶望に。
田澤がクローザーを務めるなど試行錯誤の時期が続き、その後にアンドリュー・ベイリーに託されたものの、5度のセーブ機会失敗があって上原にお鉢が回ってきた。
それでも地区首位を走っているのは、打撃陣が好調をキープしてきたからという理由が大きい。
もしも、ブルペンがしっかりしていれば、さらに貯金を殖やしていた可能性があったのだ。厳しいブルペン事情は、数字にも表れている。
・セーブ機会失敗(blown save) 13回 26位
・セーブ成功パーセンテージ(SV%) 57% 28位
・被本塁打 93本 27位
・与四球 294個 29位
いずれも下から数えた方が早い。ちなみにSV%のトップはヤンキースで、実に91%の成功率を収めている。これは絶対的な守護神、マリアーノ・リベラがいるからに他ならない。
では、数字から導かれるセーブ機会の失敗のシナリオを分析してみよう。