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<HONDA Method> ソルティーロが本田圭佑を超える日 連載第5回 「逆境こそ、進化へのチャンス」
text by
榎森亮太Ryota Emori
photograph byHONDA ESTILO
posted2013/07/08 06:01
清瀬市の内山運動公園サッカー場。人工芝のフルコートで実戦に近い練習が出来る。
ついに開校した。新たな船出の先に待ち受ける見えない壁とは──。
6月4日、それはソルティーロにとっても、本田圭佑にとっても記念すべき日となりました。
東京スクール第一号の清瀬校開校となったその日、日本代表のユニフォームをまとった本田はオーストラリアを相手に後半ロスタイムにPKを決め、ブラジルW杯出場に導いた。彼が助走を始めた瞬間、僕はど真ん中に蹴り込むイメージが容易に浮かんできました。でもそうであるが故に、「大丈夫か?」という思いがあったのも事実です。
そんな心配も関係なく、本田は、本当にど真ん中に突き刺しました。
これまでの言動から予測して、相手GKでさえも真ん中に来るんじゃないかと想定している中で、“裏の裏”をかいた。身内ながら、あっぱれと言わざるを得ません。
オーストラリア戦の前日、本田が開口一番発した言葉は……。
このオーストラリア戦の前日、僕はロシアから帰国した本田を迎えに、成田空港に行っていました。日本代表が宿泊しているホテルまで送り届ける車中、息子をチャイルドシートに乗せた後に彼が開口一番発したのは、翌日の試合のことではなく、清瀬校のことだった。
「明日、開校やろ。どうや? 清瀬のほうは」
正直、あまり聞かれたくない質問でした。というのも、数字的な面では決して成功といえる成果を出せていなかったからです。5月末に2日間、体験入学の機会を設けて、140名ほどの子供たちが集まってくれた。でも、実際に入校してくれたのは、この時点で半分にも満たなかった。
大阪の上新庄校や井高野校が9割近く入校してくれたことと比較すると、正直、厳しい状況です。理由はいくつか考えられます。大阪と東京の“水”の違い、清瀬市近隣のスポーツ団体とのライバル争い、新参者である僕らに対する認知度……。もちろん、指導方法等を改善していく必要性もありますが、何よりも難しいのは明確な理由があげられないことです。
いわば、見えない敵と戦っているといってもいいかもしれない。
そんなことを本田に打ち明けると、彼はこう言いました。