スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
葡萄の生育と醸造家の熟練。
~カーディナルス快進撃の理由~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2013/06/16 08:01
攻守にわたってチームを牽引するモリーナ。WBC日本戦での心憎い活躍も記憶に新しい。
私もふくめて、野球ファンはけっこう物忘れが激しい。こまかい数字は覚えているのに、記憶のどこかに大きな穴が開いているらしく、とんでもない基本を度忘れすることがある。たとえば、過去3年のワールドシリーズ王者。
2010年がジャイアンツ。
2011年がカーディナルス。
2012年がジャイアンツ。
となると、'13年はカーディナルスが……と予想した人は、今季の開幕前、いったいどれくらいいたのだろう。うむ、こういう出目買いは、あまりといえばあまりか。
私も、カーディナルスはほぼノーマークだった。なにしろ、魅力的な選手が少ない。ヤディエル・モリーナのWBCでの大活躍は特筆ものだったが、それ以外で才能を感じさせる選手といえば、カルロス・ベルトランぐらいだろうか。投打の主軸を担うアダム・ウェインライトやマット・ホリデイには「いつまでも二流」の印象がつきまとうし、脇役のアレン・クレイグやデヴィッド・フリースにも、あまり飛び抜けたイメージはない。
それが過小評価だったと責められるなら、すみませんと頭を下げるほかないだろう。
2013年のカーディナルスは素晴らしい快進撃を見せている。6月11日現在、42勝22敗で6割5分6厘。これは大リーグ全30球団中最高の勝率だ。後半戦に急落がなければ、年間100勝の大台も夢ではない。
22歳のシェルビー・ミラーの活躍には、とにかく驚かされた。
投手陣では、ウェインライトをリーダー格に、実質2年目のランス・リンや新鋭のシェルビー・ミラーが、びっくりするような成長を見せている。
なかでも眼を奪うのは、新人王の資格を持つミラーの台頭だ。
12試合に先発して7勝3敗という数字も立派なものだが、防御率=1.91、WHIP=0.98、被打率=.209という内容が素晴らしい。'90年10月生まれの22歳という若さが信じがたいほど、マウンド上の態度も堂々としている。
ミラーの活躍に刺激されたのか、今季のカーディナルスからは自家栽培の若い葡萄が続々と育っている。