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葡萄の生育と醸造家の熟練。
~カーディナルス快進撃の理由~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2013/06/16 08:01
攻守にわたってチームを牽引するモリーナ。WBC日本戦での心憎い活躍も記憶に新しい。
「金で即戦力を補強する」流れに背を向けた球団。
'88年2月生まれのタイラー・ライオンズ(13年5月デビュー。2勝2敗、防御率=3.51、WHIP=0.97)、'89年2月生まれのジョン・ガスト(13年5月デビュー。2勝0敗、防御率=5.11、WHIP=1.30)、さらには、'91年7月生まれと断然若いマイケル・ワッカ('13年5月デビュー。1勝0敗、防御率=4.58、WHIP=1.19)といった面々だ。
このなかで将来が最も期待されるのは、まだ21歳のワッカだろう。直球は時速150キロを超えるし、なんといってもチェンジアップの落ち方が尋常ではない。先日のテレビ放送でも、彼が三振を奪うたび、アナウンサーは「このチーム一番のチェンジアップ」と絶叫していた。
若手投手がこれだけ伸びたのには、ふたつの理由が考えられる。
第一は、なんといっても球団の方針だ。
'11年に主砲アルバート・プーホルスをFAで失って以来、カーディナルスは「金で即戦力を補強する」という発想から離脱する方向を選んだ。いや、他球団が32~33歳の有名選手に巨額の金をどんどん投資しているのだから、発想の転換には苦痛と辛抱がつきまとったにちがいない。それでも、彼らは耐えた。そんな痩せ我慢の結果が今季の収穫である。
とにかく頭が良く、“最高の現場監督”の捕手モリーナ。
第二の理由は、「投手の醸造家」ヤディエル・モリーナの熟練だ。
WBCのプエルトリコ代表を紹介したコラムにも述べたことだが、とにかくこの捕手は圧倒的に頭がよい。記憶力がよく、観察力にすぐれ、思い切った判断を下すことができる。つまり、最高の現場監督と呼んでも過言ではない。
となると当然、チーム首脳の信頼度はゆるぎないものとなる。先発を言い渡された若手投手が監督やコーチの指示を仰ごうとすると、ほとんどかならず「モリーナのリードに全幅の信頼を置いて、いわれたとおりに投げろ」という答えが返ってくるそうだから、あとは推して知るべしだろう。
加えて、モリーナは太っ腹である。出世頭のミラーなど、「なんでもいいから投げたい球を投げてこい。どんな球でも捕ってやる」とモリーナに請け合われて勇気百倍、急激に自信をつけたといわれている。