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100mの山縣vs.桐生だけじゃない!
充実の日本陸上陣、飛躍の夏へ。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2013/06/10 11:50
レース後のコメントで「70m付近で、もう抜かされることはないなと思った」と完璧な勝利を語った山縣。「勝ててホッとしています」と笑顔がこぼれた。
場内アナウンスで選手が紹介されると大きな歓声が沸き起こる。
やがて、スタートを前に、スタジアムは静寂に包まれる。
陸上の短距離種目のおなじみの光景ではある。だがこの日は、いつにも増して、歓声は大きく、静寂は研ぎ澄まされていた。
6月8日、陸上の日本選手権2日目、男子100m決勝。会場の味の素スタジアムに訪れた観客の数は約1万7000人。国内の陸上の大会では異例の大人数を集めることになったのは、男子100mへの注目だった。
4月の織田記念で高校3年生、17歳の桐生祥秀が10秒01をマーク。以来、9秒台への期待は高まり続けた。
記録への大きな期待と、今夏のモスクワ世界選手権代表選考会であることで注目の集まった今大会を制したのは、織田記念で桐生に敗れた山縣亮太だった。初優勝である。タイムは10秒11。対する桐生は10秒25の2位。
9秒台こそ出なかったが、記録の達成には、そのスタジアムのトラック、風など、競技条件もかかわってくる。それを考慮すれば、山縣の好走が際立った決勝となった。
スタートの差、わずか0秒021――ここが勝負の分かれ目だった。
両者の結果を分けたのは、スタートの差だった。
8人のうち、もっとも速く飛び出た山縣に対し、桐生は6番目と出遅れた。
その差は0秒021。
一見、小さな数字のように思えるが、そうではなかった。好スタートを切ってその後もスムーズに加速した山縣に対して、後方から追う形になった桐生は、こう振り返った。
「50mから70mくらいで山縣さんが前に出ているのが分かって、追いつけないという気持ちになってしまいました」
スタートの小さな差が、レース全体に影響を及ぼしたのである。
では、スタートの違いはどこから生まれたのか。
それは大会までの過程にあったのかもしれない。