プロ野球亭日乗BACK NUMBER
クルーン“大喧嘩”騒動の真相。
忍耐強い野球選手がキレてしまうとき。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2010/08/21 08:00
阪神ファンの過激なヤジや挑発にも「逆に燃えるね」。
クルーンは言う。
「ブルペンで投げていると、阪神ファンからものすごいヤジが飛んでくる。“バカ、ガ~イジン! バカ、ガ~イジン!”ってね。それで中身の入ったペットボトルとかが投げ込まれたりするけど、オレは逆に燃えるね。メジャーを思わせるエキサティングな雰囲気がある。その雰囲気がオレは好きなんだよ」
阪神ファンの過激なヤジをもこうやって受け入れている。ペットボトルのジュースを浴びても、気にも止めない。
でも、そんなクルーンでも、目の前で唾を吐きかけられたら、さすがにスイッチが入ったのだ。
スティーブン・スレーターさんも、客室乗務員を28年間勤め(正確には20年間なのだが)、プロとしての訓練も受けている。ああいうトラブルの際にも、おそらくとても忍耐強い人物だったのでは、と想像もする。
実は野球選手も、非常に忍耐強いものなのだ。
クルーンが話していたように、相手ファンからは厳しいヤジを浴びることも多い。ものが飛んでくることもある。メディアには批判され、プライベートを探られることもある。そういう様々なことに対して、選手たちは忍耐強く我慢して、受け流し、気にも止めないように努力しているのだ。
お金さえ払えば、選手に何をやってもいいわけではない。
今回の事件で、そのファンが巨人ファンだったのか、中日ファンだったのかは分からない。実際に唾を吐きかけたのかどうかも水掛け論になるだけだろう。ただ、選手にとって一番堪えるのは、味方だと思っているファンに心ないことを言われたり、そういう侮蔑的な行為をされた、と感じたときなのだ。
決して「お客様は神様」ではない。
お金を払って入場したら、選手に何をやってもいいわけではない。
そこには一定のルールがあり、マナーもある。外国人選手だから日本語が分からないと、とんでもないことを言うファンもいるが、彼らはそういう言葉は知っているし、心も痛むのだ。そういうルールやマナーを守れないファンは、もはや球場で観戦する資格はない。
スレーターさんと言い争った女性乗客は、実は搭乗前にも別の乗客と荷物の置き方を巡って口論となり、それをスレーターさんが仲裁していたのだという。
スレーターさんやクルーンが怒りに任せてとった行動を、筆者は決して責めようとは思わない。