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足を上げるか、上げないか?
松井秀喜とT-岡田、運命の別れ道。 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byyukihito Taguchi/Hideki Sugiyama

posted2010/08/09 10:30

足を上げるか、上げないか?松井秀喜とT-岡田、運命の別れ道。<Number Web> photograph by yukihito Taguchi/Hideki Sugiyama

入団当初から松井秀喜と同じ背番号55を与えられたT-岡田。ここまで28本塁打でパ・リーグのホームラン王争いの首位を走る(8月5日現在)

「背番号55」――巨人に入団した松井秀喜外野手(現ロサンゼルス・エンゼルス)が活躍したことで、このナンバーは日本球界で一つの意味を付与された。

 大型スラッガーが背負う背番号。プロ野球の世界に身を投じる若者にとっては、この「背番号55」は、本塁打という野球最大の魅力に身を捧げる選手のシンボルとなった。

 独特のノーステップ打法で、今季ブレークしたオリックスのT-岡田内野手も、そんな思いで「背番号55」を背負った選手の一人だった。そしてこのT-岡田と松井の成長の軌跡をたどると、実は不思議な双曲線で交わることになる。

 松井が巨人に入団した1年目、1993年のキャンプでのことだった。訪れたOBや評論家が松井のフリー打撃を絶賛する中で、ただ一人、その将来性に“否定的”な人物がいた。通算3085安打の日本記録を持つ張本勲さんだった。

「松井は素晴らしい才能の持ち主だ」

 張本さんは言った。

「だが、今のフォームでは通用しない」

 そうして松井に教えたのが、右足を上げずに、地面をするようにステップする打ち方――いわゆる「すり足打法」だった。

「すり足打法」で迷っていた松井を救った長嶋監督。

「すり足打法」はスイングの際の上下動が少なくボールを正確に捕らえるという点では有利だが、松井のようなパワーヒッターには、ねじれの反動が使いにくく、スイングパワーがボールに伝わりにくいと感じる部分もある。

 結局、張本さんの指導を“拒否”する形で、松井は右足を上げる今の打法に突き進むことになる。そのとき迷える松井を救ったのが、生涯の師弟関係を築くことになる長嶋茂雄監督(現終身名誉監督)だった。

「オマエにはオマエのタイミングの取り方、スイングの軌道がある。それを二人で探して、最高のフォームを見つけ出そう」

 そうしてミスターとの二人三脚が始まり、松井は日本を代表するスラッガーへと成長していくわけだ。

 この逆の道を歩んだのが、T-岡田だった。

 プロ入り当初は一本足打法だったが、入団2年目には「すり足」打法に挑戦。それでも長いトンネルを抜け出すことができなかった。

「もっと反動を使った方がいい」

 今季も開幕直後には、打撃コーチからは再び足を使った打法に戻すことを勧められ、悩みに悩んだ時期もあった。

「開幕直後にはちょっとノイローゼ気味になっていた時期がある」

 こう教えてくれたのはあるスポーツ紙のオリックスの担当記者だった。

「性格が穏やかで、どちらかというと気が優しい。今季は“T-岡田”と岡田監督に命名されて、大きな期待がかかっていることも判っていただけに、結果がでないこと、コーチに徹底的に指導を受けたことなどで、ちょっと精神的に追い込まれていた時期もあった」

 それを救ったのがチームメートと岡田彰布監督だった。

【次ページ】 チーム一丸となってT-岡田を支えたエピソードとは?

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