プロ野球亭日乗BACK NUMBER
足を上げるか、上げないか?
松井秀喜とT-岡田、運命の別れ道。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byyukihito Taguchi/Hideki Sugiyama
posted2010/08/09 10:30
入団当初から松井秀喜と同じ背番号55を与えられたT-岡田。ここまで28本塁打でパ・リーグのホームラン王争いの首位を走る(8月5日現在)
チーム一丸となってT-岡田を支えたエピソードとは?
ある日の練習後、選手サロンでのことだった。落ち込んでいるT-岡田を見て、数人の選手がT-岡田の特注Tシャツを着て食事をしだした。次の日にはまた数人が、そして次の日も……。そうしていつの間にか選手サロンが、T-岡田Tシャツで一杯になったのだ。
「“悩んで、落ち込んでいるけどガンバレや!”という無言の励ましでしたね」(前出・担当記者)
そして、もう一人、手を差し伸べたのが岡田監督だった。
5月に二人だけの打撃練習が始まった。室内練習場を閉め切って、延々と続くマンツーマンの打撃指導。そのとき指揮官が教えたのが、いまのノーステップ打法だった。
両足を大きく開く。重心を落として低く構えてノーステップでスイングする。
「下半身の動きを抑えることで、低めのボール球を振ることが少なくなった。甘く来たのをしっかりとらえられている」
本人はこの打法の利点をこう解説する。
あとやるべきことは、バットの軌道に集中することだけだった。そうすることによって、来た球に逆らわずにセンターから逆方向へも強い打球が打てるようになった。
足を上げるのか、それとも上げないのか。
松井とT-岡田はまったく逆方向に進むことでそれぞれの道を見つけ出した。しかしその過程で生涯の恩師と出会い、本塁打を打つという特別な才能を開花させた。
そして松井は「背番号55」を特別な意味を持つナンバーに育て上げ、T-岡田はその継承者としての道をいま、歩みだしたわけである。