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日本サッカーの明日のために、
勝利至上主義との決別を!! 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byTakuya Sugiyama/JMPA

posted2010/08/05 10:30

日本サッカーの明日のために、勝利至上主義との決別を!!<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama/JMPA

9月4日、南アW杯で敗れたパラグアイと再戦を果たす新生日本代表。勝敗はさておき、その後の国内メディアの反応にも注目したい

次期監督候補イルレタ氏が「外を使え」と力説する理由。

 とはいえ、南アW杯に出場したスペインは、ポジションワークを無視した、中盤全員が司令塔的な、真ん中一辺倒のサッカーで世界一の座に就いた。決勝戦の後半、右サイドハーフにヘスス・ナバスを投入してから、それは多少緩和されたが、あのサッカーをスペイン的だということに、僕は大きな抵抗を覚える。あのメンバーでしかできない特異なサッカーであり、日本が真似すべきサッカーだとはまったく思わない。

 イルレタはいつでも僕にこう力説した。「真ん中を行くな」「外を使わないとゴールは奪えない。そのほうが断然合理的だ」と。だが、その一方で、彼はつなぐサッカーが大好きだ。中盤サッカーを好む監督として知られる。

 中盤サッカーが好きなのに外を使えというイルレタの考えは、ともすると矛盾しているような印象を受ける。中盤=真ん中と日本人の従来の解釈に従えばそう聞こえるが、中盤の定義をサイドまで広げれば、違和感は消える。

 スペインサッカーの魅力もそこにある。サイドハーフあるいは4-2-3-1の3の両サイド、まさにヘスス・ナバス的な選手が活躍し、サイド攻撃に多彩さを備えている点こそが、日本との最大の違いだ。

 イルレタに限らず、スペインの指導者を代表監督に迎えることに、僕が異論を持たない一番の理由になる。彼らには日本に欠けている要素を補う力がある。

ゆるい相手に勝ち星を重ねることは停滞を招く原因になる。

 だが、彼らを招いただけで、日本のサッカーが強くなるとは思えない。

 冒頭で述べた通り、新生日本代表は、パラグアイ戦を9月に行なう。しかし、パラグアイがそこにどんなメンバーを送り込んでくるだろうか。9月と言えばヨーロッパのシーズンの開幕と時期は重なる。ベストメンバーで来日する可能性は100%ないはずだ。Bチーム以下のメンバーで来日することが予想される。もし日本が、海外組を招集し、ベストメンバーで戦えば、日本の勝利は火を見るより明らかだ。

 そのような親善試合の積み重ねで、星を稼いだのが岡田ジャパン。代表とは名ばかりのチームをホームに迎え、ゆるい設定のなかで勝利を重ねたわけだが、それが強化になっていたとはまったく思えない。勝利の連続は、むしろ停滞を招く原因だったと確信している。

 岡田ジャパンがW杯本番になって突然パンチアウトした原因は、最後になって負けが込んだからだ。このままではマズイとあわてて大改革に踏み切ったことにある。勝利から学ぶことより、敗戦から学ぶことのほうが多いとはよく言われるが、岡田ジャパンの戦いを回想すると、ゆるい設定の親善試合で楽勝していたことの不幸を思わずにはいられない。

 50戦26勝12敗12分。これが岡田ジャパンの通算成績だが、'09年までは36戦21勝5敗10分という圧倒的な成績を残していた。そこに間違いのもとが潜んでいた。

【次ページ】 新生日本代表に必要なのは、実のある敗北だ。

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