スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
MLBが球数制限を導入した経緯から、
藤浪晋太郎と阪神の育成力を考える。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byNanae Suzuki
posted2013/04/28 08:01
神宮球場のブルペンで投球練習を繰り返す藤浪。毎試合150キロを超える速球を投げている藤浪だが、果たしてシーズンを通して怪我無く活躍できるのか……。
阪神の藤浪晋太郎は、久々にお客さんを呼べる投手、という気がする。
4月21日のヤクルト戦では、7回を2安打無失点、しかも83球という見事な「省エネ」投球でゲームを作り、2勝目をマークした。
この見事な投球が議論の種になるのが面白い。阪神OBで通算320勝をマークしている小山正明氏は、首脳陣が藤浪を降板させたことに噛みついた。「デイリースポーツ」によれば、小山氏はこう語っている。
「内容が悪いとか、負けている展開で代打を出されるのなら仕方ないけど、十分完投できる展開で代えてしまうベンチは理解できん。ピッチャーは球を投げるのが仕事やろう。残り1回や2回で20~30球投げたところで、どうってことない」
小山氏は大きく育てたいなら、完投させるべき、という考えを持っている。
球団としては、少なくとも5月までは6回か7回、球数は100球をメドとして藤浪を交代させるつもりのようだ。
藤浪のケースでは、私は球団側の判断を支持する。藤浪に、息長く活躍して欲しいと思うからだ。その理由は、アメリカの事例にある。
保護政策強化の流れを作ったジャレット・ライトのケース。
メジャーリーグではいまや、若手投手の育成は腫れものに触るような扱いだ。ナショナルズのエースとなったスティーブン・ストラスバーグは、3年前、トミー・ジョン手術を受けたため、昨季は投球回数を年間160回までに限定し、シャットダウン。ナショナルズはプレーオフに進出したにもかかわらず、ストラスバーグには登板機会がなかった。
それほどまでに球団の「財産管理」は徹底しているのである。
こうした保護政策は、1990年代に若手投手を酷使し、投手寿命を縮めてしまった──そういう反省がメジャー全体で共有されているからだ。
その象徴ともいえるのが、ジャレット・ライトだ。1970年代、巨人で活躍したクライド・ライトの息子だ。
息子のジャレットは1997年にメジャーに昇格すると、21歳にもかかわらず8勝をマークした。その翌年はローテーションをしっかりと守り、12勝をマークする。ところが3シーズン目に入って成績が急落、防御率は6点台、投球イニングも大幅に減ってしまった。翌年からは故障に苦しみ、シーズンを通して投げられなかった。
なにもライトだけではなく、他の若手有望投手も、投球回数過多になった翌シーズン、故障や不振に悩むのが目についた。
ここからその原因を探ろうとする動きが出てくる。