濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
シンガポールを拠点とした青木真也。
異国の地でも“仲間”のために闘う!
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2013/04/12 10:30
この試合でも、持ち味となるグラウンドでの技のキレは健在。自身のフェイスブックでは、最近の書き込みが英語と日本語併記という国際派ぶりを披露している青木。
4月5日、シンガポール・インドアスタジアムで開催されたアジア最大級のMMAイベント『ONE FC』のメインイベントは、朴光哲と青木真也によるライト級タイトルマッチだった。
王者・朴は山本“KID”徳郁率いるKRAZY BEE所属。青木は修斗、PRIDE、DREAMで輝かしいキャリアを積んできた。日本のファイター同士が、シンガポールでベルトをかけて闘うという図式だ。
同時に、青木は“シンガポールの選手”でもある。現在、彼が所属しているのは現地の巨大ジムEVOLVE MMA。地元のファンにとっても、青木は単なる外国人ファイターではないのだ。そして日本のファンは、そんな試合をネットPPVで観戦した。新しい時代の、新しいマッチメイクであり新しい観戦スタイルだ。
昨年、DREAMが定期開催されない状況からONE FCと契約した青木。UFCとも交渉していたが、金銭をはじめ様々な条件を比較してONE FCを選んだという。ただ、世界最高峰であるUFCを選ばなかったからといって、“マイペースな格闘技人生”を選んだわけではなかった。
実際、肩や上腕の筋肉が、以前より大きくなったように見える。
朴の気力と体力を冷酷に削り取る、青木の鋭利な攻撃。
闘いぶりも圧巻だった。
打撃を得意とする朴に対し、まともなパンチを一発も出させることなくタックルでグラウンドへ。その後の動きにも、無駄が一切なかった。
バックを取ってのフェイスロックは極まらなかったものの、首をねじ曲げる動きを利用して朴を仰向けにさせる。“がぶり”の状態から腕を巻き込みつつ仕掛けるダースチョークもポイントをずらされたが、不完全な体勢の相手にヒザ蹴りを放つ。ディフェンスがおろそかになっている部分を狙うパウンド、ヒジ打ちの精度も高かった。
一つの攻撃が、常に次への布石になっている。朴はディフェンスに専念することを余儀なくされ、気力と体力を奪われていく。
朴と闘う青木は、さながら彫刻家だった。
ナタで一刀両断にするのではなく、ノミで冷静沈着に相手を削り取る。そして削りきったところで“スリーパーホールドで一本勝ち”という彫刻作品が完成する。
フィニッシュタイムは2ラウンド2分1秒。だが青木にとって、かかった時間は関係がないのかもしれない。1ラウンドであれ最終ラウンドであれ、作品を完成させることが最も大事なのだ。