プレミアリーグの時間BACK NUMBER
W杯で惨敗したイングランド。
タレント不足はいつ解消できるのか?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2010/07/20 10:30
ベスト16でドイツに1-4と惨敗したイングランド。ゴールを誤審で認められなかった不運はあるが、最後は粘りを欠いてしまった
プレミアを代表するGKは外国人ばかりだったという事実。
守護神不在のゴールマウスでは、初戦で起用されたロバート・グリーンが凡ミスで敵に同点ゴールを献上。チームからスティーブン・ジェラードの先制ゴールで手にした高揚感を奪ってしまった。プレミアを代表するGKと言えば、ペペ・レイナ、ペトル・チェフ、ブラッド・フリーデルといった外国人ばかり。昨季10位以内のチームでゴールを任されたイングランド人は、前監督時代の失策で代表から消えたポール・ロビンソンと、現監督の元でベンチ生活を強いられたジョー・ハートのみというのが国産GKの現状だ。
ボランチに関しては、ガレス・バリーが怪我から回復途中でもレギュラーとしてメンバー入りした事実が全てを物語る。実力もワールドクラスとは言い難いうえ、フィジカル面でも万全ではなかったバリーは、ドイツのカウンターに対する防波堤にはなれなかった。昨夏に10億円台の移籍金でマンC入りして話題となったバリーが、ブレーメンで秘かに頭角を現したメスト・エジルに楽々とかわされて喫した4失点目は、ネームバリューが先行するプレミアと、知名度は低いが能力の高い若手が育つブンデスリーガの差を象徴しているかのようだった。
ジェラード、ランパードらのピークが過ぎていく時代へ。
評判倒れのプレミア戦士たちを率いたファビオ・カペッロ監督は、大会前から「プレミアでレギュラーを張る選手のうち、イングランド人の割合は4割にも満たない」と嘆いていた。ジェラード、ランパード、ファーディナンド、テリーらが下り坂に差し掛かる今後は、新勢力の台頭がなければルーニー頼みの度合いが増すばかりだ。
2年前のU-21代表戦でスチュワート・ピアース監督(A代表助監督)に「彼ならステップアップ可能」と言われたジェームズ・ミルナーでさえ、南アのピッチでは力不足が明らかだった。1つ年下にはハートとアダム・ジョンソンのマンC組がいるが、大物獲得が可能なクラブで将来に保証はない。さらに若いジャック・ロッドウェルとジャック・ウィルシャーは、それぞれエバートンとアーセナルで出場時間を増やすことが先決だ。その下には、前U-16代表キャプテンでチェルシーを昨季のユースカップ優勝に導いたジョシュア・マッキーチランや、イプスウィッチのロイ・キーン監督が「絶対に手放さない」と言い張るコナー・ウィッカムのような攻撃的なタレントもいるが、現U-17世代の彼らが4年後のブラジル大会には間に合うかどうか疑問だ。
“ホームグロウン・ルール”は起死回生の策となるか?
奇しくもプレミアでは、今季から“ホームグロウン・ルール(登録メンバー内に国内で育成された選手が一定数必要)”が導入される。果たして、各クラブは母国の将来を見据えて新ルールへの対応を試みるのか?
ルール上は21歳までの3年間をイングランドで過ごせば「国産」とみなされることから、プレミア勢が「外国産の18歳」に手を出さないとも限らない。そうなればリーグの潤いは枯れずとも、代表にとっては不毛時代が続く。
イングランド・サッカー界が、2010年W杯を受けて「プレミアの繁栄」という色眼鏡を外して自身の姿を直視できるのであれば、今回の歴史的大敗も単なる悲劇とはならないのだが……。