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<10番の時代の終わり> リオネル・メッシ 「なぜ彼は“神の子”になれなかったのか」
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byRyu Voelkel(T&t)
posted2010/07/22 06:00
ドイツ戦後、肩を落とすメッシ。終了間際のシュートも力無くGKノイア―に押えられた
しかしその得点者の中にメッシの名前は無かった。
果たして彼に何が起きていたのだろうか。
準々決勝のドイツ戦に敗れた後、リオネル・メッシはうつろな表情でロッカールームに戻ると、そこで人目もはばからずに大泣きしたという。
「あの敗戦は私の50年の人生の中で最も辛い瞬間だった。ロッカールームで泣きじゃくるレオを見て、彼がこの代表にかけていた思いが伝わってきた」
ディエゴ・マラドーナ監督は後にそう語っている。
優勝候補のアルゼンチンと、大会で最も注目を浴びる存在だったメッシ。
ケープタウンのグリーンポイントスタジアムのスコアボードに光る0-4の数字は、準々決勝のさらにその先を見ていた二人に突き付けられた悲しい現実だった。
4年前の雪辱を期し、万全の状態で今大会を迎えたメッシ。
「メッシのワールドカップになる」
大会前にそう断言したのはマラドーナだけではなかった。
メッシはバルセロナで昨シーズン47得点を挙げ、キャリア最高ともいえる活躍を見せた。以前は度重なる負傷に苦しんだが、食事やコンディショニング、練習メニューなどを大きく改善し、負傷の数も激減。心身ともに万全の状態で今大会を迎えようとしていた。
「4年前は思うように試合に出られなかったけど、今大会はプレーしてワールドカップ優勝という夢を叶えたい」
メッシは南アフリカ大会に賭ける意気込みをこう語っている。
そんなメッシをマラドーナは絶対的に信頼し、迷うことなく現役時代に自らが付けていた10番を託した。
自身が成し遂げた1986年ワールドカップ以来の優勝に、この小さな10番が導いてくれる――。かつての10番はそう信じていた。
マラドーナは、批判を受けるメッシをかばい続けた。
就任以来、マラドーナは一貫してメッシ中心のチーム作りを行なってきた。
「メッシはピッチ上で自由にプレーしなければならない」
「メッシ自身が最も気に入っているポジションでプレーさせる」
「メッシがいい状態でプレーすれば、止められる者はいない」
しかし彼のアルゼンチン代表はワールドカップ予選で苦しむ。メッシは代表のユニフォームを着ると、なぜか途端に静かになった。
バルセロナで見せる華麗なプレーを期待するアルゼンチン国民からは、「代表への気持ちが希薄なのではないか」との批判も出ていた。
しかしマラドーナはメッシをかばい続けた。
批判するジャーナリストに辛辣な言葉を浴びせ、時には協会とも喧嘩し、そしてメッシには「お前が一番だ」と言葉をかけ続けた。