スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
「投手の年」と若手の進出。
~MLBにおきた劇的な潮流変化~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2010/07/16 10:30
オールスターで2回を無失点に抑えたヒメネス。4月17日のブレーブス戦ではロッキーズ初のノーヒットノーランを達成した
ナ・リーグが勝った。好投手をそろえたナ・リーグが、久しぶりにオールスターで勝った。1996年、マイク・ピアッツァが故郷のフィラデルフィアでMVPに輝いて以来の勝利だから、実に14年ぶりのトンネル脱出ということになる。その間、1度の引分け(2002年)をはさんでア・リーグに蹂躙されつづけてきたわけだから、ベンチや選手たちのはしゃぎようも納得がいくというものだ。
ただ、今季は戦前からナ・リーグの優位が予想されていた。冒頭でも触れたが、なにしろ好投手が多い。15勝1敗のノーヒッター男ウバルド・ヒメネス(ロッキーズ)を筆頭に、防御率1位(1.70)のジョシュ・ジョンソン(マーリンズ)、完全試合を達成したロイ・ハラデイ(フィリーズ)、防御率2位のアダム・ウェインライト(カーディナルス)、昨年のサイ・ヤング賞ティム・リンスカム(ジャイアンツ)といった豪華な顔ぶれがそろったのだ。
しかも平均年齢が低い。ハラデイ、ティム・ハドソン(ブレーヴス)、クリス・カーペンター(カーディナルス)といったヴェテランを除くと、彼らはみな20代の若さだ。そこに、なぜか球宴に選ばれなかった若手(25歳以下)のハイメ・ガルシア(カーディナルス)、マット・レイトス(パドレス)、クレイトン・カーショー(ドジャース)、スティーヴン・ストラスバーグ(ナショナルズ)らを加えると、明らかに新しい勢力分布図ができあがる。
投高打低だった1968年「投手の年」の再来ではないか?
巷間ささやかれるとおり、これは「投手の年」の再来のような気がする。私は、投高打低の傾向が顕著だった1968年のナ・リーグ投手陣を思い出してみた。代表格はボブ・ギブソンだった。ほかにも、ドン・ドライスデール、ホアン・マリシャル、スティーヴ・カールトン、トム・シーヴァー、ファーギー・ジェンキンスら殿堂入りした投手がずらりと顔をそろえていた。ギブソンはこの年、防御率1.12の驚異的数字を残している。
2010年も、終わってみると、これに近い結果がもたらされるかもしれない。デニー・マクレインのような30勝投手の出現はさすがにむずかしいだろうが、20勝投手は何人か出るにちがいないし、防御率1点台の投手も久々に登場する可能性がある。3年前の2007年には、防御率3点以下の投手がジェイク・ピーヴィただひとりだったというのに。