スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
「投手の年」と若手の進出。
~MLBにおきた劇的な潮流変化~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2010/07/16 10:30
オールスターで2回を無失点に抑えたヒメネス。4月17日のブレーブス戦ではロッキーズ初のノーヒットノーランを達成した
「ステロイド時代の終焉」が本塁打の量産を終わらせた。
それにしても、この潮流変化はなぜ起こったのだろうか。
ザック・グリンキーやティム・リンスカムの存在が先駆的だったことはもちろんだが、最大の理由は「ステロイド時代の終焉」だろう。ステロイドは、投手にも効いたが、打者には魔法のような効果を発揮した。マグワイアやソーサやボンズが、スタンプでも押すように本塁打を量産していた時代は、やはりどこか異常だったのだ。
もうひとつの理由は、大きな波動が一巡したことではないか。
クレメンス、マダックス、R・ジョンソン、グラヴィン、シリング、P・マルティネスといった殿堂級の大物投手が歴史的な役割を果たし終えたいま、これまで頭が天井につかえていた若手がいっせいに羽根を広げたとしてもべつに不思議ではない。
いやむしろ、新たに湧き起こった「投高打低」の担い手がまだ20代中盤の年齢であることに、私は注目したい。
「ホームランの年」と呼ばれた1998年、ヒメネスやJ・ジョンソンは14歳の少年だった。ア・リーグの投手陣をひっぱるデヴィッド・プライス(レイズ)やフィル・ヒューズ(ヤンキース)にいたっては、まだ12歳の小僧だった。もしかすると彼らは、打倒ボンズ、打倒マグワイアを夢見てボールを握っていたのではないだろうか。そして現在ただいま、彼らはまだピークを迎えていない。だとすれば、蓋をあけたばかりの「投手の年」は、意外に長く持続するのかもしれない。