南ア・ワールドカップ通信BACK NUMBER
アッパレ! サムライ・ジャッジ。
南アW杯で名を上げた西村雄一審判。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byLatin Content/Getty Images
posted2010/07/13 11:30
懐が深く、対話をいとわない。
ワールドカップ期間中に設けられたレフェリーの公開トレーニングで、日本人レフェリーの西村雄一氏を取材したのだが、今まで漠然と抱いていたのとはかなり違う印象を受けることとなった。
西村氏は、開幕初日のフランス-ウルグアイ戦など、まずはグループリーグで3試合の笛を吹いた。正確なジャッジ、的確なゲームコントロールはFIFA審判委員会から高い評価を受け、各国から集まった精鋭たちがふるいにかけられていく中、“事実上の決勝戦”と注目を集めた準々決勝オランダ-ブラジル戦(7月2日、ポートエリザベス)の主審を任されることになった。
折りしも6月27日の決勝トーナメント1回戦で、大誤審が2試合続いた直後。
イングランド-ドイツ戦のランパードのノーゴール判定、アルゼンチン-メキシコ戦のテベスのオフサイド見逃しと、いずれもビッグチームだったことで審判への関心が高まった時期であった。
ブラジル代表メロの悪質なプレーに毅然とレッドカード!!
FIFAは今回、ワールドカップ期間中に計4度の公開トレーニング日を設け、60~90分のトレーニング終了後には、1時間という十分な取材タイムを用意していた。
誤審騒動直後の6月30日にあった第3回の公開トレーニングには、約700人もの各国メディアが集まった。西村氏はランパードとテベスのプレーに関するジャッジについて聞かれ、こう話した。
「どんな審判にもミスはある。僕も同じような状況なら同じように判定していたかもしれない。見えないものは見えないし、分からないものは分からない。ただ、1試合の重みというのは感じているし、間違いを指摘されることは必要なことだと思っている」
こうして迎えたオランダ対ブラジルは、互いに削り合う激しい攻防の連続。ともすれば荒れる危険性のあった試合を、しっかりとコントロールし、さらに評価を上げた。
中でも、後半28分にフェリペ・メロがロッベンを踏みつけた悪質なプレーを見逃すことなく、毅然とレッドカードを出したジャッジは、世界中から絶賛された。
エリート審判が陥った、Jリーグでの大騒動とは?
西村氏は1972年生まれ。'99年に1級審判員になり、'04年にはプロ審判に当たるスペシャルレフェリー(SR)=現プロフェッショナルレフェリー(PR)=となった。
'05年東アジア選手権・中国対韓国の試合では、本来出すべき選手ではない別の選手にレッドカードを出してしまう失態を犯したものの、その後も堅実なジャッジを続け信用を回復し、'07年U-17W杯では副審の相樂亨とともに日本人として初めてFIFA主催大会決勝戦(スペイン-ナイジェリア)の笛を任された。
審判としてはエリート中のエリート。そんな西村主審だが、一時は大騒動の渦中にいた。
'08年4月29日のJリーグ第9節、FC東京-大分戦。試合中、抗議を繰り返す大分の選手に対し、西村主審が「死ね」と言ったのではないかという疑いがかけられたのだ。