南ア・ワールドカップ通信BACK NUMBER
クライフがスペイン応援を決定!?
美しく、偉大な決勝戦は実現するか。
text by
西部謙司Kenji Nishibe
photograph byGetty Images
posted2010/07/10 11:00
ヨハン・クライフはスペインを応援することに決めたらしい。
クライフはオランダ人だが、決勝では母国のオランダを応援しないというのだ。
南アW杯のスペイン代表チームは、ほとんどバルセロナである。プジョル、ピケ、ブスケッツ、シャビ、イニエスタ、ペドロがバルセロナ所属で、ビジャもW杯が終わればバルセロナに入団することが決まっている。しかもセスクはバルセロナのユース育ちだ。スペインのプレースタイルは、そのままバルセロナといっていい。そして、そのバルセロナ・スタイルの大本を作ったのがヨハン・クライフなのだ。
なぜクライフはオランダよりスペインを贔屓にするのか?
バルセロナのグアルディオラ監督は、「クライフは(バルセロナというチームにとって)ラファエロのような存在」だと言う。
ラファエロの壁画はすべて1人で描いたわけではなく、ラファエロの工房に所属する多くの弟子たちが手伝って完成した作品だ。とは言え壁画の元のアイデアはラファエロのもの。つまり現在のバルセロナの原画、元のデザインを作ったのは'90年代に監督を務めたクライフだという意味を、グアルディオラ監督は言っているのだ。クライフのDNAはバルセロナに、スペインに、世界中のどの土地よりも濃く受け継がれている。
クライフがバルセロナに持ち込んだのは、オランダの、彼が選手として活躍していたアヤックスのフットボールだった。つまり、クライフを介してオランダとスペインは兄弟のような関係にある。では、なぜクライフは兄(オランダ)より弟(スペイン)を贔屓にするのだろう。
アヤックスの敵、フェイエノールトの守備的スタイル。
オランダのファンマルバイク監督は、フェイエノールトでUEFAカップに優勝して名を上げた人物だ。小野伸二がプレーしていたときの監督である。
ロッテルダムのクラブ、フェイエノールトはアムステルダムのアヤックスと古くからライバル関係にあった。アヤックスの華麗で攻撃的なスタイルに対して、フェイエノールトはやや現実的で手堅いスタイルなのが伝統なのである。現在のオランダ代表チームも、ファンボメルとデヨングという屈強で守備力のあるボランチを2人使い、カウンター対策としている。それまでのオランダといえば1ボランチが定番だったので、国内でも「守備的だ」という批判も出たが、ファンマルバイクは勝利最優先の方針を曲げず、結果的に予選は無敗、W杯も全勝で勝ち進んできた。ただ、そのプレーぶりがいつものオランダの華々しさに欠けている感は否めない。