南ア・ワールドカップ通信BACK NUMBER
「チャンピオンになりたいんだ!」
名を捨て実を取るオランダの是非。
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byFIFA via Getty Images
posted2010/07/04 13:20
「いまこそ'94年の復讐を」と記されたプラカードを持ったファンをスタンドで見た。
その90分後、オランダは 16年前と同じ準々決勝でブラジルを下し、くだんのファンの望みを叶えた。ベスト4入りは12年ぶりのことだ。
オランダといえばエンターテインメント性の高い攻撃的なサッカーをするというイメージがある。近いところでは'08年のユーロ。ベスト8で終わったものの、スペイン、ロシアと並んで大会中最も面白い試合を見せてくれたのはオランダだった。イタリアに3-0、フランスには4-1で勝っている。
それなのに、今回はちょっと違う。
グループステージ最初のデンマーク戦からずっと、オランダのサッカーには面白みが感じられないのだ。
試合は支配しているが、伝統とは異なる守備的サッカー。
前の選手が連動しない。
だからボールを持っても鮮やかな連係がない。意外性もない。
ノックアウトラウンド1回戦のスロバキア戦後、ファンマルバイク監督はいった。
「これまでの全試合、我々がボールを支配してきたことは見てもらったと思う――」
カメルーン戦を除いて、数字の上ではそのとおり。ボールポゼッションはどの試合も50%を超えている。しかし、圧倒的に試合を支配していたという印象はない。“50%超”は拙い遅攻の結果という気さえする。
監督は続けた。
「それから、我々が敵にスペースを与えないことも」
こちらはよくわかる。今大会のオランダの特長はまさにそれ。伝統にそぐわぬ、守備を重んじたサッカーをしているからだ。
「俺たちはチャンピオンになりたいんだ」とロッベン。
ファンマルバイクは中盤の底にファンボメルとデヨングを立たせている。2人は空間的なバランスを考えてポジションを取っている。そして右からファンデルビール、マタイセン、ハイティンガ、ファンブロンクホルストが並ぶディフェンスラインは、中盤の底の選手らと力を合わせ確実に守ることを考えている。
前の4人も同様だ。しっかり守るというコンセプトは徹底されており、相手にボールを持たれたら、高い位置からプレッシャーをかけにいく。自陣に引いては後ろの6人と一緒にブロックを作る。
「これまでのワールドカップでオランダに何が起きたか、俺たちみんなよく覚えている。だから、ファンはオランダに面白いサッカーを求めるけれど、『ショーは終わった』が俺の答えだよ。俺たちはチャンピオンになりたいんだ」
攻撃の要であるロッベン自ら路線変更を宣言している。