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五輪ベスト4の快挙を生んだ
細やかな観察と情報共有。
~関塚隆氏が著書に記した哲学~
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byShigeki Yamamoto
posted2013/03/19 06:00
『見て、話して、ともに戦え U-23世代をどう育てれば勝利に導けるか』 関塚隆著 文藝春秋 1200円+税
チームをひとつにして、目標に向かわせるために――。
昨年のロンドン五輪で男子サッカーをベスト4に導いた関塚隆監督の著書が上梓された。成長途上にある23歳以下の若者たちをいかにして率いてきたか、その過程や監督哲学を丁寧につづっている。
「自分自身で五輪を振り返って検証してみたいと思ったのが、本書を記そうと思ったきっかけでした。タイトルに『見て、話して、ともに戦え』とありますけど、これはチームづくりにおいて僕が大事にしている根幹部分です。みんながチームを思いながら、窮屈に感じることなく目標に向かっていけるのがいい組織だと思うし、それは何もサッカーに限った話ではないようにも感じています」
Jリーグがまだ誕生していない時代、早大出身の関塚は本田技研に入団し、社会人として工場勤務や本社勤務を経験している。引退後は早大監督、鹿島アントラーズのコーチを経て、監督として川崎フロンターレを強豪に育て上げたわけだが、様々な立場で組織に携わってきたことが“人重視”の指導哲学の背景にある。
立ち上げ当初は内気だった山口螢の変化を、観察と会話で把握。
本書に描かれているボランチの山口螢についての一例が実に興味深い。
チーム立ち上げ当初の印象は〈内気で、自己主張の苦手なタイプに見えた。初めのうちは目を見て話せるタイプではなかった〉。だが所属のセレッソ大阪で出場機会を増やして自信を深めていくと、関塚とも目を合わせて話すようになったという。山口をしっかりと観察し、コミュニケーションを取っていたからこそ、ちょっとした心の変化に気づくことができたのだと言える。
「観察して、会話をすることで選手のスタート時点の情報が分かると、彼らがどう変化しているのかも把握できます。たわいもない会話だったり、表情を見ておくことも自分のなかで大切にしています」
個人プレーに走りがちになっていると感じると、コミュニケーションを取って自分のプレーを客観視させた。そうすることでチーム目線のプレーに切り替えさせることができた。双方の意思疎通が図れていると、問題が生じたときの“早期発見、早期治療”を可能にする。