野球クロスロードBACK NUMBER
打撃改造で大勝負に出た中田翔。
WBC初優勝時の福留に重なる雄姿。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byDaiju Kitamura/AFLO SPORT
posted2013/03/06 06:02
「しっかりボールを捉えた時は、楽に飛んでいきますから。当分はこのフォームで感じをつかみたい」と急造ながら手応えを感じている中田。
中田と同じく、WBCで福留孝介が施したフォーム修正。
負けが許されない国際大会で、それを実践する怖さもあるだろう。中国戦で結果を出したとはいえ、その後の試合で沈黙し、日本の3連覇が潰えてしまったとなれば、「なんでこんな大事な時期に変えたんだ」と戦犯扱いされかねない。
だが、中田にはフォームを変える怖さがない。言い換えれば、思い切りの良さがある。
彼に似た想いから打撃フォームを変え、最終的に結果を残した選手がいる。
'06年の第1回WBC代表の福留孝介だ。
大会前、バットのグリップを寝かせ、トップの位置を高くするといった大幅な打撃フォーム修正に着手して臨んだ福留は、大会後、自身の取り組みについてこう語っていた。
「自分がもっと上に行けるのであれば、『思い切って変えていこう』とは日頃から感じていたことなので、それほど抵抗感はないですね。別に怖さはないし、平気でしたよ」
しかし、WBC初戦の中国戦で本塁打と好調なスタートを切ったものの、新しいフォームが固まっていなかったせいもあり次戦の台湾戦から快音が消えた。
第2ラウンドまでで19打数2安打。ただこの時、福留の形は固まりつつあった。
福留が韓国戦で放った一撃のように、中田もアーチを描くはず!
準決勝の韓国戦ではスタメンを外れたが、7回に代打で登場すると劇的な先制2ランを放った。決勝のキューバ戦でも代打としてだが9回に2点タイムリーと、彼は最後の最後で復活を遂げ、日本を救ったのだ。
福留は、苦悩の期間をこう振り返っていた。
「フォームを変えて初めての実戦だったんで、今、自分のバッティングがどうなっているのかがよく分からなかったんです。そういった意味でWBCでは苦労しましたけど、逆にあの段階で悪い部分が多く出てくれたので修正しやすかったのかもしれませんね」
余談だが、この年の福留はシーズンでもキャリアハイの打率3割5分1厘をマークし、首位打者となった。
中田にしても、このまま快音が止まらなければ何ら問題はない。しかし、そんな順風満帆な青写真など本人も描いていないだろう。
ただ、本人が一番「このフォームは成功する」と信じてもいる。
だからこそ、チーム、野球ファンは、新たな形に取り組む中田翔を信じてほしい。
たとえ一時的な不振に陥ろうとも、日本屈指の右の大砲は、必ずや大事な場面でチームを勝利に導くアーチを描いてくれる、と。