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レスリングに「金メダルのジレンマ」が。
日本が勝ち過ぎると競技が無くなる!?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAP/AFLO
posted2013/02/15 11:25
IOCのジャック・ロゲ会長は、レスリングを正式種目からの除外候補と発表した翌日、IOCの発表にすぐ反応した国際レスリング連盟(FILA)の会長と「近日中に会談することになった」とコメントしている。
てっきり、近代五種かテコンドーが、オリンピックの「中核競技」から外されると思いこんでいた。
まさか、レスリングが除外対象となるとは……。
第一報を聞いて私は、「IOCの理事というのは、センスもないし、教養もないのではないか?」と思った。大したことない連中に競技の「生殺与奪」を握られているとは、なんだか悲しくなってしまった。
だって、古代オリンピックから綿々と受け継がれてきた競技ですよ。人間の根源的な営みとか、力、技比べの楽しみがこの競技には宿っているのだ。
それを「密室」で否定してしまったIOC理事の罪は重い。
近代五種や、テコンドーはロビー活動が効を奏したなどと評価されているが、そんな政治的な力学で決まっていいとは思えないし、ロビーイングで生き残って胸を張っているのも淋しい気がする。外されてしまったレスリング関係者の気持ちを考えろ、とでも言いたくなる。
一部の国に金メダルが偏ると、その競技の存続が危ない!?
レスリングが外されてしまった経緯については、IOCから理由の説明がなされておらず、日本のメディアも推測の域を出ない。ただし、近年のIOCの傾向を見ると、「ひとつの国に金メダルが偏らない」ことが非常に重視されているように思う。
北京オリンピックでのこと、ソフトボールで日本がアメリカを破って金メダルを獲得した後の記者会見で、アメリカの記者が、アメリカの監督にこんな質問をした。
「日本が金メダルを獲得したことは、ソフトボールにとって、将来的にプラスになるんじゃないですか?」
この質問には驚いた。アメリカが負けたことで、将来、ソフトボールにオリンピックの正式競技として復活の目が出たのではないか、という意図だったからだ。アメリカの監督は、
「日本やオーストラリアといった国は強いし、世界的な広がりがある。私たちが負けたのは残念だが、たしかに説得材料にはなりえるかもしれない」
と答えたのが印象的だった。
こうした観点から見れば、女子レスリングの金メダルは日本に偏って見えた可能性がある。
日本人にとっては、「金メダルのジレンマ」なのだ(その点、柔道はいろいろな国にメダルの可能性が出てきて、好ましい状態にある。日本人にとっては面白くないけれど)。
メディアによっては、レスリングが外されたことを「日本叩き」と見なしているところもあるが、現時点ではそれは過剰な反応だと思う。