南ア・ワールドカップ通信BACK NUMBER
W杯で南アはどう変わったのか?
サッカーと地元経済の切実な関係。
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byTakuya Sugiyama/JMPA
posted2010/06/29 11:55
ヨハネスブルク郊外のランドブルクでタクシーに乗った際、世の中を憂える顔をした運転手に聞いてみた。いまこの国が抱える一番の問題は何かと。
治安の話をした直後だったので、期待していた答は「犯罪の多さ」である。
ところが返ってきたのは「失業者の数」だった。
もっともだ。仕事があれば、ひったくりや強盗だって減るに違いない。
2009年の南アフリカの失業率は23.9%。ワールドカップのおかげで2006年以降30万人分の雇用が創出されたのに、この酷さ。
今年の上半期にはさらに悪化して、25.2%になったそうだ。特に4月と5月は大会関係のインフラ工事が終了したせいで、ぐっと上がったという。
ワールドカップが始まった後、ズマ大統領は大会が持つ経済効果について語っていた。今回の開催により南アフリカのGDPは成長する、雇用機会も増えると大統領は確信しているらしい。
ズマ大統領が言うW杯の経済効果はほとんど感じられない。
だがいまのところ、街中の広告や商店の飾り付けやテレビの特別番組を除いて、景気の良さそうな感じはあまりしない。
そこで市井の声を聞いてみた。
――と言うとカッコイイが、行った先はランドブルクの目抜き通りの交差点。要はホテルの真ん前である。
ここに、他の大きな街角同様、毎日少年たちが立つ。信号待ちの車を相手に出場国の旗やマフラーやブブゼラを売っているのだ。
定番はもちろん南アフリカの国旗。その他の売れ筋は当日試合がある国や、ブラジル、イングランド、アルゼンチンなどの人気国。一回り大きなサイズを前面に出して、車の間をセールスして廻っている。ちなみに、我らが日本の旗は試合日になっても“お薦め品”にはならなかった。
この国の平均給与水準は1日当たり1200円程度だが……。
「確かにワールドカップのおかげで儲かったよ。一番稼いだときで、一日1000ランド(約1万2000円)近くいったな」
18歳のフィレモンはいう。
この国の平均的な給与水準はというと、車社会ゆえ至る所にあるガソリンスタンドで働いての日給100ランド程度(約1200円)。ビシッとした制服を着ているホテルの門衛でも、一日150ランドほどしかもらえない。1000ランドはたいした額だ。
「特に開幕前後は飛ぶように売れた。だから仕事のなかった友達も誘ってやった。一緒にやろうって」
フィレモンがやっているような路上の商いは、届け出など一切なしで勝手に始めるもの。よって国の税収は増えないけれど、一国の経済活動の10%から20%はこうした“闇の商売”が占めているというから、見逃せない好況である。失業者数だって現にここで1人減っているのだから。