南ア・ワールドカップ通信BACK NUMBER
グループリーグで苦しみ目が覚めた。
真のスペイン・サッカーはこれからだ!
text by
中嶋亨Toru Nakajima
photograph byBob Thomas/Getty Images
posted2010/06/28 13:10
グループリーグ最初のスイス戦で、まさかの敗北を喫したスペイン。
2戦目のホンジュラス戦では2対0と勝利したものの、「華麗なパスワークは失われた……」と多くの人が感じたことだろう。そして2対1と勝利してグループリーグ首位通過を決めたチリとの試合でも、周囲を納得させるような圧倒的なプレーは見られなかった。
あの流れるような美しいパスサッカーは、このまま本当に消えてしまうのだろうか。
パスサッカーが消えたと言われる最大の理由は、相手陣内で自在にパスを繋ぎながら敵守備網を崩し切ってしまうサッカーを未だに見ることができないからだ。
スイス戦ではボールを支配しながら1点も奪うことができなかった。
2戦目となるホンジュラスとの試合では、ヘスス・ナバス、ビジャの両サイドによる縦へのスピードに頼ることで勝機をつかんだ。
グループリーグ最後のチリ戦では、敵の果敢なプレッシャーに前半の半ばまで苦しむこととなり、結局ビジャのロングシュートによって試合の流れを引き寄せただけだった。
大会前から徹底的に研究されていたスペイン・サッカー。
大会前に期待されていたイニエスタ、シルバ、シャビ、セスク、シャビ・アロンソらが紡ぎだすパスサッカーは、未だに披露されていない。だが、だからといってスペインのパスサッカーが失われたということにはならない。
周囲が期待していたスペインのパスサッカーは、当然ながら、敵から研究し尽くされている。グループリーグで対戦した中でも特にスイス、チリはスペインのパスワークを封じるための作戦を綿密に練り上げていた。
ボールを支配されることを前提として自陣に立てこもったスイス。
逆に、スペインが予選を通じて一度も受けたことのないような激しいプレッシャーをかけることで勝機を見出そうとしたチリ。
スイスは結果的にその作戦で成功を収め、チリも前半は大いにスペインを苦しめることができた。ただ、スペインはこの2チームに対しても試合の大半でボールをキープし攻撃し続けることができていた。そのことが意味するのは、相手がどんな出方をしてきてもスペインは不用意にボールを失うことは無いということだ。それは、ボールを失わないための連係プレー、パスワーク、個人戦術が今でもスペインの根幹にあることを示している。
イタリア、フランスが犯したようなミスはほとんど無い。
グループリーグで敗退したイタリア、フランスといった強豪は敵に研究し尽くされていた上に、ボールを不用意に失い過ぎることで致命傷を受けた。だが、スペインは違った。
スペインの最終ラインとブスケッツ、シャビ・アロンソ、シャビたちは全くと言っていいほど不用意なボールの失い方をしていない。イタリアやフランスのように攻撃に出る際に長い縦パスを出して跳ね返され続けるようなこともない。互いがサポートし合える状態を整えながらボールを動かし、チャンスがあれば長い縦パスを放つ。ボールを失わず、敵にスキが生まれれば最終ライン裏にもパスを出す。