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真の“地域密着”型クラブへ――。
信州発、JFL長野パルセイロの挑戦。
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byTaisuke Nishida
posted2012/12/23 08:02
長野パルセイロのスポーツディレクター、足達勇輔氏。「町のクラブ」であることの重要さを肌で知る人間の存在は、クラブにとって貴重だ。
静岡以外でも、環境さえあればタレントは必ず出てくる!
「タレントというのは、何も静岡を好んで生まれてきているわけではありません。つまり、タレントはどこにでもいる。環境さえあれば必ず出てくるはずです。そもそも、何十万人もの人口がいる都市でタレントがいないということはあり得ませんよね。ですから、長野のポテンシャルはそこに暮らす人の数だけあると言っても過言ではないと思いますよ」
ポテンシャルについての話は、再び長野という町に及ぶ。これまでのキャリアの中で、足達はこの町に対する世界の反応を耳にしてきた。
「AFC(アジアサッカー連盟)での仕事を通じて感じたのは、ほとんどの人が、『NAGANO』という町の名前を知っているということです。もちろん、オリンピックの影響ですね。福岡や名古屋を知らないアジアの人でも、『NAGANO』は知っている。それだけで、少しワクワクしませんか?(笑)」
いつかJ1の舞台で「信州ダービー」する日。
このクラブでアンバサダーを務める土橋の引退試合には、2000人以上もの観客が詰めかけた。長野パルセイロより一足早くJの舞台へと駆け上がった松本山雅はもとより、長野パルセイロも少しずつコアなファンを獲得し始めている。JFLの今季最終節では過去最高となる4127人の観客動員を記録し、右肩上がりの成長を示すことができた。
ヴァンフォーレ甲府に所属していた当時、土橋は突如として経営危機に直面したクラブの一員として、ビラを入れたティッシュを配り歩くという厳しい現実を経験した。松本山雅に移籍してJリーガーから地域リーガーになったあの頃にも、プロとしてのプライドを捨ててファンを拡大するために知恵を絞り、自ら奔走した。そうした経験を積んできたからこそ、長野でも自身が果たすべき役割を理解している。
長野パルセイロにとって、足達や土橋を筆頭とするクラブの牽引者が過去20年間のJリーグを体感していることは何より大きい。その歴史を教科書として、彼らはどのように自分たちのスタイルを築き上げるのか。また、日本サッカー界は過去20年の経験から彼らをどのようにして引き上げようとするのか。
経営環境的に厳しいと言わざるを得ない地方クラブが確固たる存在感を持つことは、Jリーグの発展において不可欠な課題だ。現在、秋春シーズン制への移行問題やJ3構想などの話題が取り沙汰されているが、それらに加えて、特にこれからJを目指すクラブの動向をしっかりと見つめていくことも非常に重要である。
引退試合で土橋が言ったように、いつかJ1の舞台で「信州ダービー」が実現すれば、長野県のサッカーファンにとってこれほど幸せなことはない。まさにそれこそが、サッカーが実現する本当の地域密着と地域活性を意味していると思う。