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真の“地域密着”型クラブへ――。
信州発、JFL長野パルセイロの挑戦。 

text by

細江克弥

細江克弥Katsuya Hosoe

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photograph byTaisuke Nishida

posted2012/12/23 08:02

真の“地域密着”型クラブへ――。信州発、JFL長野パルセイロの挑戦。<Number Web> photograph by Taisuke Nishida

長野パルセイロのスポーツディレクター、足達勇輔氏。「町のクラブ」であることの重要さを肌で知る人間の存在は、クラブにとって貴重だ。

 世界一のクラブを決するFIFAクラブW杯がクライマックスを迎えた12月16日、決勝の舞台・横浜から約200キロ離れた長野県長野市では、地元サッカーファンの注目を集めたもう一つのビッグイベントが行われていた。

 土橋宏由樹、引退試合――。

 韮崎工業高を卒業後にドイツ・ブレーメンへの留学を経験した土橋は、帰国後、ヴァンフォーレ甲府で7年間プレー。'06年には松本山雅FCに移籍し、2年後の'08年にはAC長野パルセイロに新天地を求めた。'11年シーズン限りで現役を退いた後は、「長野のサッカーを盛り上げたい」という熱意からクラブのアンバサダーとして活動している。

 松本と長野というライバルクラブを渡り歩き、しかも両クラブでキャプテンを務めた選手は、今のところ土橋しかいない。

“本物”の風情漂う、松本山雅と長野パルセイロの「信州ダービー」。

 長野県内に本拠地を構える松本山雅FC(J2)とAC長野パルセイロ(JFL)は、松本市と長野市にまつわる歴史的背景から因縁深いライバル関係にある。両者が心の内に秘めるライバル心は映画の題材になったほどだが、やや強引な演出も少なくない日本の“ダービー事情”においては珍しく、その対決は“本物”の風情を漂わせる。

 土橋に対する両クラブのサポーターの思いは複雑だ。長野のサッカー界で最も愛され、憎まれた男――。引退試合でスタジアムDJが発したキャッチフレーズは、彼を取り巻く複雑な事情を最も端的に表していた。

 ただ、だからこそ土橋は、自らの引退試合で「信州ダービー」を実現することにこだわった。

 この日、AC長野パルセイロの本拠地である南長野運動公園に集まったのは、両クラブで土橋とともにプレーしたOB選手たち約40名。そうして約1年半ぶりに実現したダービーは両クラブサポーターにとって懐かしい顔ぶれの“同窓会”ともなり、スタジアムは地域リーグやJFL時代に経験したいつものダービーとは違う、独特の温かい雰囲気に包まれた。

 試合後、涙ながらに両クラブへの感謝を語った土橋は、こんな言葉を繰り返し発した。

「いつかパルセイロと山雅がJ1の舞台でダービーを戦えるよう、これからも長野のサッカーを盛り上げたい」

 その言葉を聞いて、素直に思った。この先、松本山雅と長野パルセイロを中心とする長野のサッカーが盛り上がるかどうかは、Jリーグの未来にとって、非常に重要なモデルケースとなるのではないか。

【次ページ】 なぜ、パルセイロが「20年目のJリーグ」の象徴なのか?

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土橋宏由樹
AC長野パルセイロ
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