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真の“地域密着”型クラブへ――。
信州発、JFL長野パルセイロの挑戦。 

text by

細江克弥

細江克弥Katsuya Hosoe

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photograph byTaisuke Nishida

posted2012/12/23 08:02

真の“地域密着”型クラブへ――。信州発、JFL長野パルセイロの挑戦。<Number Web> photograph by Taisuke Nishida

長野パルセイロのスポーツディレクター、足達勇輔氏。「町のクラブ」であることの重要さを肌で知る人間の存在は、クラブにとって貴重だ。

なぜ、パルセイロが「20年目のJリーグ」の象徴なのか?

 今年7月にJリーグ準加盟申請の承認を受けたAC長野パルセイロは、今季のJFLを“昇格圏内”の2位で終えた。しかし、彼らはまだJ2に昇格することができない。来季から適用される「クラブライセンス制度」において、J2の規格を満たすスタジアムを有していないのである。

 現在のホームスタジアムである南長野運動公園総合球技場は、行政のバックアップを受けて2016シーズンの開幕までに全面改修されることが決定している。6000人のキャパシティを1万5000人に拡大するために80億円もの予算が組まれるのだから、議会の意気込みも相当のものだ。それでも、少なくともあと数年、長野パルセイロは“JFL以下”を舞台としなければならない。

 もちろん、熱意だけで仲間入りできるJリーグではない。クラブ数を安易に増やそうとする試みには後の破綻を招く大きなリスクがあり、とはいえ完全プロ化を志すクラブがある以上、ハードルを上げて振り落とすばかりでは発展しない。クラブライセンス制度は、そのバランスを見極めるための施策である。

 その狭間で揺れる長野パルセイロは「20年目のJリーグ」を象徴するクラブの一つと位置づけることができる。地域密着の「百年構想」を掲げて邁進してきた20年の歴史は、これからJリーグを目指そうとするクラブにどんな教訓をもたらしているのか。長野パルセイロでスポーツディレクターを務める足達勇輔氏に、クラブの現状と可能性を聞いた。

長野オリンピックの遺産や周辺人口などの恵まれた条件。

 こちらがクラブライセンス問題を指して「難しい状況にあると思う」と投げかけると、足達は迷わず、それを否定した。

「いや、難しさはないですよ。これからも順調に進むと思っていますし、この町には条件がそろっています。近隣を含めて約60万人という大きな規模の地域であること、松本山雅とのライバル関係があること、それから、実は皆さんがイメージしているほど雪が多いところではなく、環境も決して悪くない。これは長野オリンピックの遺産ですが、交通の便も実によく整備されています。そう考えると、条件はそろっているとしか言えません」

 '90年代前半から指導者として育成畑を歩んできた足達は、湘南ベルマーレの前身であるフジタとベルマーレ平塚で若年層の指導に当たり、その後、セレッソ大阪ユース監督やJAPANサッカーカレッジ監督、横浜FCトップチーム監督などを歴任。'07年からは日本サッカー協会に所属するナショナルトレセンコーチとして、活動の幅を国内外に広げてきた。長野パルセイロのスポーツディレクターに就任したのは今年2月のことだが、このクラブにはアドバイザーとして長く関わってきたから内情はよく理解している。

【次ページ】 企業でも誰のものでもなく、長野という町のクラブ。

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