フェアウェイの舞台裏BACK NUMBER
“勝手に月間MVP”で振り返る、
2012年シーズン、ゴルフ名場面。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byNIKKAN SPORTS/AFLO
posted2012/12/21 10:30
12月3日に行なわれたジャパンゴルフツアー表彰式では、今年の部門別ランキングや特別賞受賞者の表彰が行なわれた。最優秀選手賞やゴルフ記者賞は藤田寛之。最優秀新人賞に藤本佳則、特別賞に最年少ツアー10勝を挙げた石川遼が選ばれた。
【4月】松山英樹──悔し涙の「トランスフュージョン」。
「トランスフュージョン」を飲むのはオーガスタでの松山の日課だった。クラブハウスで売っているグレープジュースとジンジャーエールのノンアルコールカクテルだ。
80と崩れた最終日には、囲み取材中に思わず悔し泣きした。限られたトップ選手だけが集う夢舞台。そこにアマチュアで2年連続で出場を果たしても、2年連続で予選を突破できても「悔しさは100%。成果はゼロ」。
報道陣の輪が解け、涙が乾くと、今年最後の一杯をぐっと飲み干した。コースを見渡すオークツリーの下で、松山は笑顔を浮かべて言った。
「こんなにまずいトランスフュージョンは初めてだ」
普段は気の利いたコメントを言うタイプでもないのに、不意に発したポエティックな一言。そんな言葉を発させてしまうほどマスターズは特別な舞台なのだ。オークツリーの枝葉からもれた光は、敗者の姿も鮮やかに照らしていた。
【5月】藤本佳則──大卒ルーキーが初のメジャー制覇。
シーズン序盤はルーキーの台頭が光った。川村昌弘と浅地洋佑の高卒コンビ、そして東北福祉大卒の藤本である。筋肉こんもりの体つきに伸びた襟足。いかつい風貌の持ち主ではあるのだが、気は優しい一面を示すような愛称がついた。顔がそっくりだから「ビリケン」。幸福の神様である。
日本ゴルフツアー選手権シティバンクカップでは、プロ5戦目での最短優勝と、ルーキーとして初のメジャー制覇を成し遂げた。アマ時代に大活躍して鳴り物入りでプロ転向しても、鳴かず飛ばずのままくすぶる選手も少なくはない。だが、藤本はそうではなかった。
川村も浅地もルーキーイヤーで賞金シードを獲得した。彼らを見ていると、プロとアマの壁などほとんどないように思えてくる。あるのは強い選手か、そうでないかだけだ。
【6月】キム・ヒョージュ──“朴セリ2世”の衝撃。
今年もやっぱり強かった韓国勢。その中でも一番インパクトが強かったのはサントリーレディスオープンを制したキム・ヒョージュだろう。
大会当時はまだ16歳のアマチュア。しかも日本ツアー初出場だというのに、ツアー最少ストローク、最年少優勝と記録ずくめの優勝となった。しかも、勢いだけでは勝てない4日間大会での達成だけに、インパクトは余計に大きかった。
翌月の米欧女子ツアー共催のエビアン・マスターズでもあと少しで優勝という活躍を見せていた。ここでも勝っていれば、日韓欧米全制覇となるところ。いやはや、末恐ろしい……。その後10月にはプロ転向した天才少女。母国では“朴セリの再来”とも騒がれるほどだというが、その才能の深さはどれほどだろうか。