MLB東奔西走BACK NUMBER
なぜヤンキースがベストなのか?
“環境”から考えるイチローの去就。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2012/12/01 08:02
現在、神戸市内で自主トレーニングを行なっているイチロー。オフの過ごし方にも注目が集まる。
今シーズン終了後、ヤンキースをFAとなったイチロー選手の所属先がいまだ決まっていない。
だが、先頃イチローの代理人であるトニー・アタナシオ氏はニューヨークの地元紙を通じて、ヤンキースへの残留希望を表明。またブライアン・キャッシュマンGMを始めヤンキース首脳陣も、移籍後のイチローの活躍を高く評価しており、報道を見る限りでは今後もヤンキース残留を基本路線に交渉が進行していくことになりそうだ。
ニューヨークに来て、イチローはかつての輝きを取り戻していた。ヤンキースでは公式戦67試合に出場し、打率3割2分2厘、5本塁打、27打点、14盗塁を記録。移籍前のマリナーズでは95試合に出場しながら、打率以外はほぼ同じ4本塁打、28打点、15盗塁に留まっていたのだから、成績の上でもその変貌ぶりは明らかだ。
特に9月以降は打率3割6分2厘と絶好調で、移籍当初は下位打線での起用が続きながらもシーズン終盤はデレック・ジーター選手と1・2番コンビを組むなど上位打線に定着した。それはつまり、ヤンキースが期待していた以上にイチローが活躍をしたことで、チームや試合における彼の影響力、存在感が無視できなくなったということに他ならない。
トレードを境にイチローに何が起こったのか。
それではトレードを境にイチローに何が起こったのだろうか。
すでに日米両国のメディアで様々な論証がなされている。そのほとんどが「スター選手が揃うヤンキースでイチローの負担が減った」とか「プレッシャーから解放されたためか、イチローが明るくなった」などと、イチローの“変化”について論じようとしている。
確かにそういった捉え方は正しいのだろう。
個人的な意見を述べさせてもらうなら、イチロー自身は移籍後も何も変化したわけではなく、本当はイチローを取り巻くファンやメディアの捉え方が変わったということではないだろうか。
専門外ではあるが心理学の世界で、「相手の反応は自分を映し出す鏡である」ということが言われている。これに当てはめるならば、今回、イチローに現れた変化というのは、移籍後に彼を評価しようとするメディアやファンの捉え方の違いが反映された結果ということになる。
ヤンキースへのトレード移籍が発表された際に、イチローは球団から提示された『下位打線での起用』、『守備位置は確定していない』、『状況によっては欠場させる』等の条件を受け入れていたことが明らかになった。
そんな状況下でニューヨークのメディアやファンがイチローに対し、“チームを牽引してくれる選手”という捉え方をするはずもなく、誰もが“ピークを過ぎたベテラン選手の1人”という認識だったはずだ。そうしたマリナーズ時代とは違った回りの人たちのイチロー観の変化が、イチローを通して明確になったということだろう。