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ロースコアと堅守速攻。
~南アW杯で得点が少ない理由~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2010/06/19 08:00
スペインのイニエスタを2人がかりで激しくマークするスイス代表
南アフリカ・ワールドカップがひとまわりした。全64試合のうち16試合が終わった。全行程の4分の1。これから先、なにが起こるかまだまだわからないが、はっきりとした傾向がひとつある。
ロースコアのゲームが多いことだ。
16試合を振り返ると、総得点は25しかない。これは、32カ国が参加するようになってからでは最低の得点数だ。98年も2002年も06年も、最初の16試合を見ると総得点は30を大きく上回っている。日韓ワールドカップのときなどは46にも達していた。
南アW杯でゴールシーンがうまれない3つの理由。
ではなぜ、南アでは得点が少ないのか。理由を少し考えてみよう。
最初に考えられるのは、チーム力に差のある組合せが少なかったことだ。いいかえれば、日韓大会のサウジアラビア(ドイツに8対0で敗れた)や、ドイツ大会のセルビア・モンテネグロ(アルゼンチンに6対0で敗れた)のようなチームが、この大会には見当たらない。私は当初、ニュージーランドや北朝鮮が大量得点の犠牲者になるのではと危ぶんでいたのだが、彼らも守備を固め、失点を最小限に食い止めることに成功した。
第2の理由は、競技場に高地が多いことだ。いうまでもないことだが、高地では走るのが苦しい。となると、攻撃の際にピッチを広く使えず、コンパクトな守備の網にかかるケースが多くなる。これでは点は入らない。
第3の理由は、ジャブラニと呼ばれる大会使用球の特性だ。ご承知のとおり、この球はぶれやすい。嫌なバウンドをするし、妙な伸び方もする。つまりGK泣かせと思われがちなのだが、もしかするとこれは、アタッカーにとっても制御しにくい頭痛の種になっているのではあるまいか。なにしろこの16試合を見る限り、FKが直接ゴールインしたケースは、ただの一度もないのである。
モウリーニョが発明した「堅守速攻」の色濃い影響が。
だが、もっと大きな理由がある。それは「堅守速攻」が大会のキーワードになりつつあることだ。スイスがスペインを倒した(1対0)のは最も顕著な例だが、ブラジルが北朝鮮に手こずり(2対1で勝利)、イングランドがアメリカに苦しめられ(1対1で引分け)、ニュージーランドがスロヴァキアから勝ち点を奪い(1対1の引分け)、日本がカメルーンから勝利をもぎ取った(1対0)試合などは、すべて根底に「堅守速攻」の思想が横たわっているように思えてならない。
ここにはやはり、つい先日のチャンピオンズリーグ準決勝で、インテルがバルサを破った影響があるような気がする。なんでもかんでもモウリーニョの手柄に仕立てるつもりはないのだが、しばらくは無敵と思われていたバルサを倒す方法を彼が発明した事実は、なんといっても大きい。ただし、モウリーニョの猿真似をすると、「堅守速攻」はたちまち「専守防衛」に転落する。これは困る。勝つ見込みがない上につまらないサッカーを見せられるのは勘弁していただきたい。