フットサル日本代表PRESSBACK NUMBER
フットサル界に飛び込んだカズが、
限られた時間の中で成し遂げたこと。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byNIKKAN SPORTS/AFLO
posted2012/11/13 11:45
カズのW杯での全プレー時間は約29分間。大会終了後には、「右ストレートの打ち方やパンチのよけ方を教わっているうちに、いきなり世界戦のリングに立ったようなもの」と自らのW杯挑戦を説明した。
カズにはすべてが分かっていた、と思う。与えられた時間のなかで、自分に何ができるのか、が。
突然のフットサル日本代表入りが報じられてから、三浦知良は好奇の視線にさらされてきた。
たった1カ月で、フットサルの選手になれるのか?
複雑なセットプレーやフォーメーションを把握できるのか?
戦力として計算できるレベルに到達するのか?
いくつもの疑問が、カズの前に行列を作っていた。
「いろんなシステムがあるらしいし、コーナーキックのサインプレーも10個以上あるらしいので、大変ですよね。昨日もミーティングのあとに残って、ディフェンスのやり方のパターン映像を20個以上は見たんじゃないかな。もう、ほとんど忘れてますけど(笑)」
そう言って報道陣の笑いを誘ったのは、初めて参加した9月下旬のキャンプだった。もちろん、システムやパターンの習得を放棄したわけではない。
練習でも試合でも、チームメイトにアドバイスを求め続けた。合宿中はコーチの部屋に通い詰め、映像を見て動き方を確認した。コーチとの個人ミーティングが、W杯期間中も繰り返された。ミゲル・ロドリゴ監督が驚くほどのスピードで、カズはフットサル選手としての血を濃くしていった。
「グループステージを突破するのが最低条件だった」
「ミゲルが言うんですよ。スペインでもイタリアでもサッカーからフットサルに転向した選手を教えてきたけど、1カ月や2カ月でここまで覚えた選手はいないって」
自らの変化は、カズも感じていた。
「最初のキャンプに比べれば、動きは良くなっているとは思う。でも、まだ、頭で一度考えるところがある。無意識に身体が動くまでにはなってない。それはホントに歯痒いし、フットサルの難しいところなんだ」
カズ自身の、プレーヤーとしての満足感や達成感は、そもそも優先順位が低かったのだ。
史上初のグループステージ突破の支えになることを、カズは自らの使命とした。
「僕ひとりですべてを変えるわけじゃないですけど、チームをひとつにする、チーム力を上げる役割はあったと思う。自分のなかではどんな結果でもいいから、グループステージを突破するのが最低条件だった。それは、最初の名古屋のキャンプから、自分に課したもの。そういうプレッシャーをかけながらやってきたので、その目的が達成されて、日本のフットサル界に少しは貢献できたのかな、という気持ちはありますけど」