フットサル日本代表PRESSBACK NUMBER
フットサル界に飛び込んだカズが、
限られた時間の中で成し遂げたこと。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byNIKKAN SPORTS/AFLO
posted2012/11/13 11:45
カズのW杯での全プレー時間は約29分間。大会終了後には、「右ストレートの打ち方やパンチのよけ方を教わっているうちに、いきなり世界戦のリングに立ったようなもの」と自らのW杯挑戦を説明した。
練習中のランニングでは常に先頭を走っていたカズ。
カズの代表入りを熱望したロドリゴ監督は、「満点をあげたいですね」と切り出した。
「人間としての言動がいつも非常に謙虚で、みんなのためにというマインドを率先して見せてくれている。自分がどんなことをしたらチームの助けになるのかを、つねに考えている。私に質問をしてくることも、チームのことばかりだ。
我々はベスト16まで残ったが、カズはエキストラなモチベーションとやる気をチームに植え付けてくれた。それは予想していたことだが、それにしても素晴らしい。信じられないよ。これから私が出会っていく選手に、自分はカズという神のような選手にトレーニングをつけたんだよと、誇り高く言いたい」
練習中のランニングでは、いつも先頭を走った。
トレーニング中の静けさを打ち破るのは、いつだってカズの声であり手拍子だった。「僕は自然にやってるんだけどね」という一つひとつのアクションが、チームメイトの緊張を解きほぐし、チーム全体の士気を高めた。45歳になった男の暖色系のオーラは、このチームに不可欠だったと言っていい。
交代で下がったカズが、悔しさから右手を思わず振り上げる……。
しかし、封印してきたプレーヤーとしての本能を、決勝トーナメント1回戦のウクライナ戦で揺さぶられた。
前半9分の失点シーンだ。カズのパスを受けた星翔太がゴール前でボールを失い、ウクライナに3点目を許してしまう。直後のタイムアウトを挟んで、カズは交代する。
ベンチ裏のウォーミングアップゾーンで戦況を見つめながら、思わず右手を振り上げた。
握りしめたビブスを叩きつけたい衝動が、背番号11を着けた背中に滲む。
失点に絡んでしまった悔しさが、全身を駆け巡っていた。
「これは本当にエクスキューズでも何でもなく、自分には経験が少な過ぎると思う。メンタルな部分では引っ張れるけれど、戦術的な指示はできない。そこまで行きつかなかったので、本当の意味で自分が引っ張るということはなかなかできなかった。それはやっぱり、悔しいですね」
サバサバとした口調が、かえって悔しさを際立たせていた。
12年ぶりに実感した日本代表の重み、身体の奥底に眠っていた国を背負う誇りと責任が、タイでの4試合で呼び覚まされたに違いない。
サッカーではなくフットサルでも、限られた時間のなかでも、できることはあるはずだという意識が、厳しい自省の言葉につながったのだ。