野ボール横丁BACK NUMBER
もっとプロ野球界にガッツポーズを!!
「相手に失礼」は時代遅れの言い訳。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/06/02 12:15
先日まで行われていた世界卓球のテレビ観戦にどっぷりとつかってしまった。
それにしても卓球はすごい。
何がすごいかというと、ガッツポーズである。ほぼ一球ごと、ポイントを取った方が必ず拳を握りしめる。ともすれば、ガッツポーズ合戦を見ているような錯覚に陥る。
そのときの叫び声も十人十色。
「ヨーッ!」
「チョーッ!」
「シャーッ!」
「オーッ! オッ! オッ!」
その気持ちもわかる。あれだけ小さなボールを、あれだけ小さなコートに入れなければならないという作業は、言ってみれば、精密機器をつくるのに似た緊張感を強いられる。
わずかな指先の狂い、呼吸の乱れも許されない。それらを御し、思い通りのプレーができたときの開放感。それがガッツポーズとなって表れるのだ。むしろ、ああやってはき出すことで、自分の中で「緊張」と「緩和」の釣り合いをはかってもいるのだろう。
また、ガッツポーズには別の効用もある。観ている側が感情移入しやすくなり、興奮が2倍、3倍になる。
そう考えると、ガッツポーズは「利」こそあれ「害」はないように思われる。
そもそもガッツポーズは自然な感情の発露なはずだが!?
ところが、野球界はどうか。
「ガッツポーズは相手に失礼」――。
それが一種のモラルとなっている。
よくよく考えてみると、そんなことを言うのは野球界だけではないだろうか(相撲は様式美の世界だから、ひとまず除外)。
サッカーなど、両手を広げてピッチを駆け回ったり、裸になったり、大はしゃぎしているではないか。でも、相手に失礼などとは言わない。
そもそもガッツポーズは自然な感情の発露であり、どうしようもないものだ。つまり、いちいち相手のことなど考えてはいない。したがって、された側も、それによって気分を害されるなどということはないのではないか。
そんな疑問をあるプロ野球関係者にぶつけると、「プロ野球は報復(死球)につながるからね」と、返された。
結局はそこが根本なのだ。
4月にも、そんなことがあった。西武の涌井秀章が、前の打席、ホームランを打って大喜びしていた千葉ロッテの神戸拓光に死球を与えたのだ。もちろん、西武サイドは報復であることは否定したものの、見る人が見ればその意味は明らかだ。
それでも、涌井が責められないのは「ガッツポーズは相手に失礼」というのが球界の常識となっているからだ。