野球善哉BACK NUMBER
東海大甲府と作新学院を分けたもの。
“ヒットエンドラン多用”の効果とは?
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/08/21 18:55
2、3回戦と無安打に終わった東海大甲府の石井信次郎だったが、作新学院戦の第3打席でのヒットエンドランのサインに応えて左前に安打を放つ。自分の打撃を取り戻した石井は、8回にはダメ押しとなる本塁打をレフトスタンドに叩き込んだ。
作新学院(栃木)の攻めを見て、一瞬、「アレっ?」と思った。
8月21日、準々決勝の作新学院vs.東海大甲府(山梨)。4回表のことである。
2点を追う作新学院は、連打で無死一、二塁と好機を作ると、5番・山下勇斗に送りバントを命じたのである。
2点ビハインドで無死一、二塁。セオリーと言えば、セオリーである。
しかし、昨夏、今年の春・夏と3季連続で甲子園にやってきている作新学院の野球は、そうしたセオリーに縛られるものではなかったから、意外に思った。
昨夏の準々決勝で対戦した智弁学園(奈良)の小坂将商監督は、作新学院が1点ビハインドの状況で、無死一塁から犠打を使わずに試合をひっくり返す攻めを繰り出してきたことを「こんな野球があるんだということを知った」と言っていたほどである。
いつもは「打ってチャンスを広げる」作新が見せた意外な手堅さ。
今大会に入っても、作新学院は、いや、小針崇宏監督はそうした野球を貫いてきた。
例えば、1回戦の佐久長聖(長野)戦。
4点ビハインドの4回表、無死から4番・高山良介が二塁打で出塁すると、4者連続で強攻策。8番・山梨浩太の右中間適時打などで3点を奪った。さらに6回表には、相手の失策で出塁した走者を送らず、1死から代打・吉田紘大を送り込むと、ライトスタンドへ逆転弾。7回表にも、無死から先頭の石井一成が四球で出塁しても、犠打で送らずに攻め続けて好機を広げ、3番・篠原優太の3点本塁打で、相手を突き放した。
3回戦の仙台育英(宮城)戦もそうだった。
1点を争うゲーム展開で終盤の7回裏を迎えたが、作新学院ベンチは強気だった。
1死から出塁(相手失策が重なり二塁へ到達)の走者をバントでは送らず、強攻策を仕掛けて2番・鶴田剛也のライト前適時打で1点を勝ち越した。
「バントで送るのではなく、打ってチャンスを広げていくチーム」
と山下は話していた。
それが、である。
この日の4回表のシーンでは、いつもの強攻策ではなく、手堅く送ってきたのである。