野ボール横丁BACK NUMBER
選抜優勝校がまだまだ「成長」途上!?
大阪桐蔭が見せた、さらなる伸びしろ。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKyodo News
posted2012/08/13 17:50
5回表、笠松悠哉(手前)の本塁打に沸く、大阪桐蔭ベンチ。貪欲な走塁を強打に織り交ぜた攻撃で、木更津総合を圧倒した。
打った瞬間から決めていた。
1回表。大阪桐蔭の1番・森友哉が打った打球が、ライト前へユラユラと上がった。
「最初から二塁へ行くつもりで走った。落ちた瞬間、行けると思いました」
森は、走力を落とすことなく一塁を蹴り、一気に二塁を陥れた。
無死二塁――。
この好走塁が呼び水となり、大阪桐蔭は、初回に一挙に3点を奪い、試合を有利に運んだ。
春夏連覇を狙う大阪桐蔭の「可能性」を見た瞬間だった。
発展途上の木更津総合と、春を制した大阪桐蔭の激突。
8月13日の第3試合は、「発展」と「完成」のぶつかり合いだった。
片や、監督の五島卓道が「6月にようやくできたばかりのチームだった」と話す千葉の木更津総合。片や春の王者、大阪桐蔭。
五島は試合前、こう語っていた。
「このチームは甲子園でも、まだまだ伸びると思うよ」
五島は、3度目の甲子園出場で初めて「てっぺんを狙う」と公言した。そう思わず口にしたくなるほど、成長期のど真ん中にあるチームだったのだ。
甲子園で勝ち進んでいくチームの中には、必ず、こういうチームがあるものだ。
よく大会前に「今年は全国で戦えるチームができた」と話す監督がいるが、そういう言葉を聞くたびに違和感がある。
高校野球においては、大会前にいかにつくるかよりも、大会中にいかに伸びるかの方が重要なのだ。
高校球児を襲う「選抜病」という名の燃え尽き症候群。
春の時点で頂点に立ってしまった大阪桐蔭にこの夏、死角があるとすれば、そこだと思っていた。まだ、伸びしろがあるかないか――。現状維持で、5試合、6試合を勝ち抜けるほど、夏の甲子園は容易ではない。それでは成長著しいチームの勢いに飲み込まれてしまう。
高校球界には「選抜病」という言葉がある。
春の選抜大会に出場したことで、一種の燃え尽き症候群にかかり、なかなか夏に向けて気持ちを切り替えられなくなってしまうことだ。そういうチームをいくつも見てきた。ましてや大阪桐蔭は、全国優勝を達成している。再燃させるのは、さらに難しかったはずだ。