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<甲子園エースという人生> すべてはあの夏から始まった。~正田樹/寺原隼人/吉岡雄二/大野倫~ 

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城島充

城島充Mitsuru Jojima

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photograph byHideki Sugiyama

posted2012/08/14 06:00

<甲子園エースという人生> すべてはあの夏から始まった。~正田樹/寺原隼人/吉岡雄二/大野倫~<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama
全国制覇や最速記録更新でスポットライトを浴びた4人のエースたち。
しかし、甲子園での栄光は彼らの人生にとってすべてではなかった。
あの夏から始まった曲折を、連続インタビューで改めて辿る。

 13年前の夏、桐生第一高のエース・正田樹は甲子園のマウンドで両手を高々と突き上げた。185cmの長身サウスポーは2階から落ちてくるようなカーブと打者の胸元をつくストレートを武器に6試合で3完封、防御率0.85と突出した数字を残し、群馬県に初の優勝旗をもたらす原動力となったのだ。

「甲子園のマウンドは独特の雰囲気で、大会が進むにつれてアドレナリンが出てくる感じでした。閉会式が終わってから、どっと疲れが出てきたのを覚えています」

 今シーズンからヤクルトのユニフォームを着ている正田は、柔和な表情であの夏の記憶を振り返った。「今となっては、いい思い出としか言えないですね。みんなで優勝したのは誇りですが、それを自分の口から言うのも変ですから」。プロ入り後、曲折に満ちた球歴を歩んだからか、今年で31歳になる男は何度もそう繰り返した。

 だが、あの夏が「いい思い出」になるまでに、彼は苦悩を味わっている。

2年生の夏、正田樹が憧れの松坂と握手して驚いた腕の太さ。

 2年生の夏、背番号「13」をつけて甲子園にやってきた正田は、開会式のリハーサルで憧れのヒーローと初めて向き合った。横浜高校を春夏連覇に導き、甲子園に数々の伝説を刻むことになる松坂大輔である。他校の選手が「ここに弟がいるぞ」と松坂に声をかけたのがきっかけだった。当時、正田は笑った顔が松坂に似ているとよく言われていた。

「握手をしたとき、腕の太さに驚きました。こういう人がプロに行くんだな、と」

 チームは大会初日の第1試合でサヨナラ負けを喫したが、正田は「もう一度、この舞台に戻ってくる」という思いとともに、別の目標を達成する決意も新たにした。

《出すぞ140km  桐生一、正田樹》

 高校入学時、開いたばかりの野球日誌にそう書き綴っていたが、そのためにウエートトレーニングに取り組むことを決意したのだ。

 1年後、甲子園のマウンドに立った正田は1回戦で比叡山(滋賀)を1安打、12奪三振で完封し、鮮烈な印象を残す。完璧な内容はもちろん、翌朝のスポーツ紙に掲載された《142km》という球速が正田の心を強くした。

「それまでは『プロ待ちの大学野球』という考えだったのですが、これでプロへの道筋ができたと思いました」

【次ページ】 「甲子園優勝投手」という肩書きの重荷を乗り越えて。

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