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「聖地」ウィンブルドンの雰囲気を満喫。
歴史的勝利の錦織圭に膨らむ期待。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKaoru Watanabe/JMPA
posted2012/07/30 16:30
1924年のパリ大会以来88年ぶりの男子シングルス2回戦進出となった錦織圭。初戦敗退した北京五輪の雪辱を果たした。
「3人が出るって、本当にすごいこと」(松岡修造氏)
同じ日、27歳の添田豪もプレー、リードしたまま試合が中断となり、翌日に持ち越された(18番コートの上部席からは添田のスコアボードが見えるのだ)。そしてもうひとり、24歳の伊藤竜馬の試合も雨で延期になったが、本来なら一日に3人の日本人テニスプレイヤーを「聖地」で見ることができたのだ。
「3人が出るって、本当にすごいことなんですよ。その価値を日本のみなさんに伝えたい」
と熱く話していたのは、かつてウィンブルドンでベスト8に進出した松岡修造氏だ。錦織の登場が、男子テニス界を活気づけているのだ。
ただ、選手村で同室の錦織と添田は、大会が始まる前は、夜な夜な「マリオカート」で楽しんでいたというのがご愛嬌(錦織が圧倒的に強いらしい)。
なにか特別なことが起きても不思議はないな――。
ところで、日本がオリンピックで初めてメダルを獲得した競技がテニスであることをご存知だろうか。
1920年のアントワープ大会、熊谷一弥がシングルスで銀、柏尾誠一郎と組んだダブルスでも同じく銀メダルを獲得した。
私は雨で試合が中断している最中に、ウィンブルドンにあるミュージアムに足を運び、特別展示室にあるオリンピックにおけるテニスの歴史をたどった。そこには「KUMAGAE」と「KASHIO」の名前がたしかにあった(熊谷は「くまがい」だが、「KUMAGAE」と表記されている)。
胸に熱いものがこみあげ、92年後のウィンブルドンで、錦織がメダルを狙える位置につけていることを誇らしく思った。
なにか特別なことが起きても不思議はないな――。刻一刻と変わる空を見ながら、そんなことを感じたウィンブルドンであった。