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「聖地」ウィンブルドンの雰囲気を満喫。
歴史的勝利の錦織圭に膨らむ期待。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKaoru Watanabe/JMPA
posted2012/07/30 16:30
1924年のパリ大会以来88年ぶりの男子シングルス2回戦進出となった錦織圭。初戦敗退した北京五輪の雪辱を果たした。
オリンピックに行ったら、絶対に訪ねようと思っていた。
テニスの聖地、ウィンブルドンを――。
7月29日、ウィンブルドン、18番コート。第15シードの錦織圭が2度目のオリンピックに登場する……予定だった。試合開始の予定時刻は11時半。そのほんの数分前になって雨が降り出した。そこから数時間、ウィンブルドンは雨に翻弄された。降ったり、止んだり。ちょっと安心していたら、今度は雷鳴が轟いた。そうかと思えば、数分後には晴れ間が微笑む。
これまで何度もウィンブルドンが雨で中断するのを見てきたけれど、これほど天気が気まぐれとは知らなかった。つまるところ、選手はこの手のストレスとも戦わなければいけないのか――。実感として、トーナメントを戦う難しさが伝わってくる。
雨の中断によって、一日の取材計画は大いに狂ったけれど、待ち時間は決して無駄ではなかった。気象条件も含め、ウィンブルドンのアトモスフィア、取り巻く空気を感じることができたからだ。
結局、錦織がトミック(オーストラリア)と試合を始めたのは14時過ぎだった。3時間に及ばんとする遅れである。ボランティアの女性スタッフが、
「好きなシートに座ってね。決めたら、タオルでシートを拭いてあげるから」
と気づかいを見せてくれたのがなんともうれしかった。
「4年前の自分とは格段に違います」(錦織)
試合はサービスゲームのキープ、そしてブレイクにブレイクバック、錦織とトミックの力量は甲乙つけがたく、タイブレークに持ち込まれた。そして第1セット、錦織がタイブレークをモノにすると、またもや雨が降り出した。中断。やれやれーーとは思ったけれど、これも含めてのウィンブルドンなのだろう。
でも、観客はイライラせず、ビールを飲んだり、アイスクリームを舐めたりして楽しそうだ。天気に怒っても、仕方がないし――。
この時期、ロンドンの日は長い。錦織vs.トミック戦は再開に数時間を要したけれど、錦織が第2セットもタイブレークで勝ち、2回戦進出を決めた。
錦織は22歳だが、シード選手の貫禄というべきか、勝負どころの集中力が際立った一戦だった。大会前の会見で、「4年前の北京オリンピック当時と比べて、どんな変化がありましたか?」と質問すると(北京の会見では、杉山愛がお姉さんのように微笑みながら隣に座っていた)、
「実力と自信がつきましたね。いまはシードにもなっていますし、いい意味で勝たなければいけないというプレッシャーもあります。4年前の自分とは格段に違います」
と堂々と話した。海外メディアに対して英語で答えているのも、さすがはインターナショナルなプレイヤーである。