Sports Graphic NumberBACK NUMBER
<“五輪から3カ月”特別連載(3)> アルペンスキー・皆川賢太郎 「現実を変えるためにもう一度」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2010/05/19 06:00
自分の可能性を信じなければ、夢には近づけない。
決して満足のいくオリンピックではなかった。オリンピックに向かう過程もまた、納得のいくものでもなかった。
その皆川は、レースが終わった直後すぐさまこう思った。
「また4年、やってやる」
それからひと月半を経て4月、現役続行を表明するに至った。
「うん、やっぱりやりたいと思った、というのが一番なんですけどね」
続けていくと決めたにせよ、これからの道筋は容易ではない。退いたほうがいいのではないか、という声も多くある。競技を続けるには資金などの環境が重要だが、これまでより厳しい状況になっていくのも否めない。年齢との戦いもあるだろう。
すると、皆川は言った。
「小学生の時ってオリンピックの価値、勝つ方法、お金のこととか環境とかいっさい考えもしないじゃないですか。だけど自分の目標を信じているじゃないですか。でも大人になると、そういう部分をどんどん失っていく。スポンサーが離れるから競技を続ける環境もなくなっちゃうなとか、年齢的なことを考えたり、できない理由から並べていきがちだと思うんですよね。子供はできない理由なんて最初から考えないから、どんどん夢に近づいていくし、それで可能になることってたくさんあると思うんですよ。今はどちらかというとそういうのに近い。
膝の状態を考えれば、当然キャリアを終えるという選択もありえるでしょう。でも自分は続けたいと思う。練習バーンも、自分の地元で確保したり、やるべき行動をやっているところなんです。賛同してくれる人がいればありがたいけれど、とにかく自分がやりたいからやるっていうのが最大のモチベーションです」
困難を乗り越えて「4年後は笑顔満々で出たいですね」。
ソチ五輪までの青写真も思い描いている。
「ふつうじゃ考えられないと思うんですが、1年はレースに出ない。日本のシリーズには、調子がよければ出るかもしれませんが。1年間だけで全部やろうと考えてしまうと、海外に行って、夏はキャンプに行ってと、結局思い切った取り組みができなくなる。だから4年間と期間を決めて、今年は体を作る年にする、高校生の頃の体に戻そうと思っています。身長マイナス100の体重に戻して、そこから、今の自分に必要な体を見つけていきたい。それに何の意味があるの? 筋肉が落ちちゃうじゃない、という意見も当然あるかもしれないけれど、動きやすいと感じられる体をまずは手に入れたいんです。
そしてダウンヒルからジャイアントスラロームまで全てやって、自分のスキーの領域をちゃんともう1回上げてから、スキーがうまくなるのに時間を使っていきたいですね」
昨シーズン、膝の痛みをかかえ渦巻く葛藤と対峙し、それを乗り越えてオリンピックの場を踏んだ。その強靭な精神があれば、もしかしたら訪れるかもしれない葛藤も、どれだけ大きい困難も、また、乗り越えるのではないか。
明確な言葉に、そう思わずにはいられなかった。
皆川は、笑顔で言う。
「4年後は笑顔満々で出たいですね」
意志あるかぎり、限界も、終わりもない。