Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
<ナンバーW杯傑作選/'98年7月掲載> ベンゲル、日本の戦いを振り返る。 ~フランスW杯の日本代表戦を分析~
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph bySports Graphic Number
posted2010/05/14 10:30
「ゲームメーカーが3割もパスミスをするのは致命的だ」
――とはいえナイーブなミス、単純なパスミスも目立ちました。
「例えば中田は、前半に28本のパスを出して、そのうちの8本をカットされた。ゲームメイカーが3割もパスミスをするのは致命的だ」
――中田自身の出来はどうでしたか?
「悪かった。集中力を欠いていたうえに、前半は自分の能力を見せるためだけにプレーしていた。試合への入り方を彼は間違えていた。後半は良くなったが、もっと考えてプレーすべきだった。
彼の能力は個人的に高く評価しているが、力の80%しか出さないようならば、並のいい選手で終わってしまう。低いレベルの中で満足すべきではない」
――逆に名波は良かったですが……。
「彼は持てる力の100%を出した。判断が正しく、プレーが効率的だった。日本の中盤を、攻守にわたって支えていた」
アルゼンチン戦前、日本代表のホテルで話したこと。
――選手交代はどうでしたか?
「呂比須にはテクニックを期待したのだろう。きついマークにあっても、前を向ける技術を彼は持っている。中西のパスから実際に惜しいシュートを放った。平野に関しては、テクニックはさほどないが、フィジカルが強くシュート力もある。元々左ウイングなのでディフェンスには問題があるが、最後に相馬と交代させて一発を狙ったのだろう」
――そういえば、試合前に日本のロッカールームを訪ねたそうですね?
「ホテルには行ったが、ロッカールームに行ってはいない」
――選手に何を話したのでしょうか?
「それはここで言えることではない。秘密だ(笑)」
――では、続いてのクロアチア戦ですが?
「緒戦の硬さが取れた日本は、見違えるほど大胆に戦った。特に攻撃がそうで、前半は何度もゴールチャンスを作った。勝つチャンスは前半にあったと思う。たしかにこの日も、中盤でボールを簡単に失う場面が多かった。そこに経験不足が露呈していた。だがクロアチアもミスが多く、日本は救われた。後半は双方に疲れが出た。クロアチアの運動量低下は容易に予想出来たが、日本にも疲れが出てゲームを支配するには至らなかった。相手を攻めきれないうちに、決勝ゴールを奪われてしまった」